さんまいのおふだ
『三枚のお札』

― 秋田県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところにお寺があって、和尚(おしょう)さんと小僧(こぞう)さんが暮らしてあったと。
 春になって、山にウドやらワラビやらフキなどの山菜(さんさい)がいっぱいなったと。
 小僧さんが、
 「和尚さん、おら、山さ行って山菜とってくる」
というと、和尚さんは、
 「そうか、今頃はいっぱいなっとるな。だども山ん婆(やまんば)も山菜食いに出とるかもしれんから、よくよく気をつけねばなんねぇど。これ、持っていけぇ。魔(ま)よけの札(ふだ)だ」
というて、三枚のお札をくれた。
 「これは、お前(め)が困ったとき使え。願ったとおりになる札こだから」
と教(おせ)えられ、小僧さん、そのお札三枚持って山へ出かけたと。

三枚のお札挿絵:かわさき えり
 いくが、いくが、行くと、山にはウドやらワラビやらフキがいっぱいなっていて、背負(しょい)カゴにポイポイ入れとった。あっちでとり、こっちでとり、むこうでとりしているうちうに、どこがどこやらわからんようになった。
 「さぁて困ったなぁ」
 いいながら、あてずっぽうに歩いていたら、山家(やまが)が一軒(いっけん)あった。戸をたたいたら、婆(ばあ)さまが出てきて、

 「おーお、小僧か。よく来た、よく来た。わしはお前(め)のおばさまだ。さ、ささ、あがれ」
という。
 「あのう。おれにあんだのようなおばさまいてあったなんて、聞いてねぇども」
 「そうかぁ、そんなはずはねぇと思うがな。お前(め)に小便(しょうべん)ひっかられながらオンブしてやっていたおばさまだぞ。ま、そんなことはええ。まずは飯(まま)食え。」
というて、ウドの酢物(すのもの)だのフキの煮物(にもの)だの出してくれた。これがうまいんだと。
 「うめな、うめな」
 って、小僧さん、腹いっぱい食うた。食うたら眠たくなって、つい、うとうとぉとしてしまった。
 しばらくして目を覚ますと、おばさまだというひとが、向こう向きで包丁をといでいた。それが、おっかねぇ顔した山ん婆(やまんば)だったと。
 小僧さん、わざとウーンとのびをしたら、山ん婆のおっかねぇ顔が、ぱっと、優(やさ)しい顔に変わった。
 「ばんば、おれ、便所(べんじょ)さ行きてぇ」
というと
 「この縄(なわ)、腰さ結わえて行け」

 という。
 便所に行った小僧さん、腰の縄をほどいて柱にまきつけ、和尚さんからもらったお札を一枚縄にはさんで、お札に、
 「ばんばが呼ばったら、『まーだ』と返事しとかれ」
というて、こっそり逃げ出した。
 いつまでたっても小僧さんが戻(もど)らないので、山ん婆が、
 「小僧、まだかぁ」
と呼ばったら、
 「まーだ。まーだ」
と返事がする。
 「小僧、まだかぁ」
 「まーだ。まーだ」
 「小僧、まだかぁ」
 「まーだ。まーだ」
 いくら呼ばっても、まーだ、まーだというもんで、山ん婆、これは妙だと思い、縄を強く引いた。便所の柱が抜けてきて、お札(ふだ)が、
 「まーだ。まーだ」
と返事をしている。

 「小僧、逃げたなぁ。おのれ、まてぇ」
 山ん婆、小僧さんのあとを追いかけたと。山ん婆の足の速いこと速いこと。すぐに追いついて、手を伸ばして小僧さんの首根(くびね)っこをひっつかもうとした。
 小僧さん、「うっひゃぁ」ゆうて、いそいでお札を一枚、うしろへ投げた。
 「おっきな川、出はれぇ」
 って。
 すると、大きな川が山ん婆の前に出来た。
 山ん婆が川をばっしゃ、ばっしゃこいでいるうちに、小僧さん、逃げに逃げた。
 しばらくすると、また、「おのれ、まてぇ」 って、追いかけてきた。その速いこと速いこと。たちまち追いつかれて、手を伸ばして小僧さんの首根っこをひっつかもうとした。
 「うっひゃぁ」
 ゆうて、いそいで最後のお札をうしろへ投げた。
 「大っきな砂山、出はれぇ」
 って。

 すると大っきな砂山が山ん婆の前に出来た。山ん婆が砂山を登っては滑り落ち、登っては滑り落ちしているうちに、小僧さんは逃げて、逃げて、やっとお寺に着いたと。
 山寺の石段を登り、山門をくぐり、庫裏(くり)に着いて、戸を開けようとしたら、辛張棒(しんばりぼう)が突っかえて戸が開かない。戸を叩(たた)いて、
 「和尚さん、和尚さん、山ん婆が追いかけてくる。早く戸を開けて」
というと、和尚さん、
 「あ、あぁ、今な、囲炉裏(いろり)で餅(もち)焼(や)いとる。餅をひっくり返してからな」
 「餅なんかどうでもいい。ああ、山ん婆が石坂を登ってくる。早く戸を開けて」
 「あ、ああ、今、ゾウリを履(は)いとる」
 「ゾウリなんかどうでもいい。ああっ、山ん婆(やまんば)が山門をくぐっている。早く開けて」
 「あ、ああ、今、辛張棒(しんばりぼう)をはずしとる」
 「早く早く、早くう」
 「ほれ開いたぞ」
 「んもう」

 小僧さん、和尚さんの脇を抜けて、奥の便所の方へ、すっとんで行った。そしたら、すぐに山ん婆があらわれ、
 「和尚、和尚、ここさ、小僧来(こ)ねかったか」
 「来たみたいだな。わしの脇(わき)通って、どこかへ素飛(すっと)んで行きおった。
 「捜(さが)すぞ」
 「捜(さが)してもいいけど」
 「ん、餅(もち)の焼けるいい匂(にお)いがする」
 「今、焼いとったところだ。餅食うてから捜すか」
 「そだな。こんな小(こ)んまい山寺捜すのわけないから、餅食うてからにするか」
 「それがよい。ほれ、ひとつ。わしもひとつ」
というて、和尚さんと山ん婆、囲炉裏端(いろりばた)に座って、味噌豆(みそまめ)つけて餅を食いはじめた。

 「どうじゃ、うめだろう」
 「あつ、あつ、ほうほう、うんうめえ」
 「そうじゃろ、寺の餅は檀家(だんか)が一等いい餅を持って来てくれるからの、うまいんだ。もひとつどうだ。ほれ」
 「あ、すまね」
 「ところで、山ん婆、お前(め)、何にでも変化(へんげ)出来るんだってな」
 「そうだ、何にでもなれる」
 「ほうか、すごいな。試(ため)しに大っきなものになって見せてくれんか」
 「お易(やす)いことだ。見てろ」
というて、山ん婆は、天井に届くほどの大入道(おおにゅうどう)になった。
 「どうだ」
 「すごい、すごい。だが、変化するものはたいていは大っきくなれるものだ。本当にすごいものは、この味噌豆くらいに小(こ)んまくなれるものだ。お前(め)、なれるかや」
 「なれるさ。見てろ」
というや、たちまち小んまい味噌豆に変化した。

 和尚(おしょう)さん、
 「すごい、すごい」
といいながら、ひょいとつまみ、熱っつい餅(もち)にくるんで、パクッと食べた。ごっくんと飲み込んで
 「小僧や、出て来ていいぞ」 というた。
 小僧さん便所から出てきて、山ん婆来なかった、ときいたら、和尚さん、
 「来たども、わしが飲み込んで、今は、ほれ、この腹ん中だ」
 って、ポンポンと腹ぁたたいたと。

 どっとはらい。

三枚のお札挿絵:かわさき えり

秋田県
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