あくとたろうとやまんば
『踵太郎と山姥』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 昔、ある山陰(やまかげ)の崖(がけ)に小さな小屋を建てて山姥(やまんば)が棲(す)んでいたそうな。
 山から里にやって来ては、酒を出せ、肴(さかな)を出せと、家ごとに叫んで歩いていたと。
 そのころ里に若夫婦がおったと。
 嫁のお腹(なか)には赤ちゃんが育っていたと。
 あるとき、夫は町に買い出しに行くことになった。
 「山姥がこわいから、わたしもつれてってけへ」
 「外は雪コ降ってるだば、転んだり冷えたりしたら腹(はら)の赤児(ややこ)にさわるじゃあ。山姥ぁ、今日は来ねと思うはで」
 「したどもぉ」
 「そんなに心配だば、お前を長持の中に入れて錠(じょう)をおろして高いどこに吊(つ)るしておくはで、おとなしくしてへや」
 

 と、嫁を天井の張りにつるして出掛けて行ったと。
 ところが、夕暮れになって山姥がやって来たと。
 「お父(ど)さいたかぁ」「お母(が)さいたかぁ」
 「酒コ出せぇ」「肴コ出せぇ」
と言うんだと。
 嫁は、天井の長持の中で息をひそめて震(ふる)えておったと。

挿絵:かわさき えり

 「どごに隠れだぁ」
と怒鳴りながら、嫁の箪笥(たんす)の上から針箱を取って炉(ろ)の中へ投げ込んだと。
 すると針箱の中の針が火の中からピタンと音をたてて跳(と)んでいって、天井の長持に矢のように刺さった。
 「あすこだなぁ」
 山姥は、土間に置いてあった鎌を握ると、吊り縄めがけて、ひょいと投げつけた。長持はどたぁと落っこちたと。
 それから鉈(なた)で打ち割って、嫁をつかみ出して頭からみりみり食ったと。
 夫が夜遅く帰って来たら、家の中がひっ散らかっていて、炉辺に嫁の踵(かかと)が転がっていたと。
 嫁もお腹の赤児も食われ、踵だけがシナくって堅くって食い残したんだと。
 

 夫は弱かったんで、ただ山姥を呪(のろ)っていたと。山姥の食い残した踵を紙袋に入れて仏壇に飾(かざ)り毎日念仏を唱えていたと。
 そしたらある日、その袋がかさこそ音がした。袋の中をのぞくと、踵がまん中から割れて男の子が生まれていたと。
 喜んだ夫は、その子が踵から生まれたので踵太郎(あくとたろう)と名付けて大事に育てたと。
 一杯食わせると一杯だけ、二杯食わせると二杯だけ、三杯食わせると三杯だけ大きくなった。こうして、いつの間にか踵太郎は二十才(はたち)になったと。
 踵太郎は、お父うからお母ぁが山姥に食われたことを聞かされていたので、二十才になると山姥退治に出掛けることにしていた。

 

 ある冬の寒い日に、踵太郎は平(ひら)たい石と菜種油(なたねあぶら)と太い縄とを持って、山姥の棲んでいる山陰に出掛けていった。何気ない様(さま)をよそおって、小屋に入れてもらったと。
 で、山姥の好きな餅を焼くふりをして、平たい石をホドの中にくべ、自在鉤(じざいかぎ)にかかっている鍋に菜種油をそそいで火に温(ぬく)めたと。
 「ばあ、餅が焼けたはで」
 「手がふさがっとるはで、食わしてけへや」
 山姥が口を開けたところへ、 「今だ!」
と、まっ赤に焼けた平たい石を口の中にほうり込んだ。
 「あぢぢ あぢぢ」
 山姥は腹をかかえて転げまわった。
 そこへ煮立った油をかぶせると、さすがの山姥もぐったりしたと。
 踵太郎は、
 「お母ぁは、もっと無念だったじゃぁ」
といって、太い縄で山姥を巻きつけると、小屋の外へ引きずって行き、谷へつき落してやったと。

 とっちばれ
 

 挿絵:かわさき えり

青森県
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