あかがみとくろがみ
『赤神と黒神』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
提供 フジパン株式会社

 むかし、陸奥(むつ)の国(くに)、今の青森県の竜飛(たっぴ)というところに、黒神(くろがみ)という神様(かみさま)が住んでおったと。
 そしてまた、竜飛からはるかに離(はな)れた十和田湖(とわだこ)のほとりには、照(て)る日も曇(くも)らすほどの美しい女神(めがみ)が住んでおったと。
 黒神は、その女神に恋をしたそうな。
 黒神は、毎日、毎日、龍(りゅう)に乗って、女神を訪(たず)ね、
 「わしの妻になれ」
と、言うておった。
 女神は、いつも、
 「もう少し待ってくだされ」
と言うて、確かな返事はしなかった。
 

 挿絵:かわさき えり
 一方、羽後(うご)の国、今の秋田県の男鹿半島(おがはんとう)というところには、赤神(あかがみ)という神様が住んでおって、この赤神も十和田湖の女神に恋をしていたそうな。
 赤神は、鹿(しか)をお使いにして、毎日、毎日、心優しい手紙を女神に送っていたと。
 手紙には、必ず、
 「私の妻になってくだされ」
と書いてあった。
 

 挿絵:かわさき えり
 女神は赤神にも、いつも、
 「もう少し待ってくだされ」
と返事を書いた。
 女神はなやんだ。
 黒神のたくましさにはあこがれたし、やさしさあふれる赤神にも心ひかれた。
 そのうちに、黒神と赤神は、女神のことで争(あらそ)いをおこした。
 

 黒神が、龍を(赤神のいる男鹿半島に)走らせれば、赤神も、負けじとばかり、鹿を黒神のいる竜飛に走らせる。
 龍は、口から火を吹いて鹿を追いはらい、鹿は、たくさんの数(かず)で龍に立ち向かう。
 「お前が身をひけー」
 「お前こそあきらめろー」
と、どちらもゆずらないのだと。
 みちのくの神様たちは、岩木山(いわきやま)に登ると、黒神の味方は山の右側に、赤神の味方は山の左側に陣(じん)どって、
 「黒神かてー」
 「赤神まけるなー」
と、てんでに叫んで応援しておった。
 ところが、力の強い黒神の方が勝ちそうだと見たのか、神様たちの七割(ななわり)が右側に集まってしもうた。それで、山の右側が神様たちに踏(ふ)みくずされ、今でも、岩木山は右の方が低くなっているんだと。
 さて、黒神と赤神の戦(いくさ)だが、なかなか勝負(しょうぶ)がつかん。
 

 ところが、ある夜のこと、赤神軍の二番大将の鹿が、太陽の沈む夢を見て、その夜のうちに死んでしもうた。
 さあ、それを聞いた鹿の赤神軍は、弱気になって総くずれ。あっという間に、龍の黒神軍が(男鹿半島めがけて)押し寄せてきた。赤神は、
 「もうこれまでだ。以後、再び世にあらわれることはないだろう」
というと、岩屋(いわや)の中(なか)に身(み)を隠(かく)してしもうた。
 喜んだのは黒神だ。急(いそ)いで龍に飛び乗ると女神の住む十和田湖に向った。
 ところが、そこには女神はおらんかった。
 黒神は、血まなこになって、女神を探した。ようやく女神の居場所を探し当てた。
 なんと、女神は、赤神の身を隠した岩屋の中にいたのだ。
 女神は、最後になって、心優しい赤神を選(えら)んだそうな。
 

 黒神は、怒(いか)りくるった。
 雲を呼び、雨を降らせて、みちのく一帯(いったい)は大嵐(おおあらし)となった。
 あらしの中に立った黒神は、大きく息を吸いこむと、千年分(せんねんぶん)の息(いき)を、一度に、
 「ブォーッ」
と吹きかけた。
 そのいきおいで、土地が動き、今の北海道が出来あがったそうな。

 とっちばれ。 

青森県
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