にがつのへや
『二月の部屋』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 
 むかし、あるところに爺(じ)さと婆(ば)さが暮らしておったと。
 ある日、爺さは山へ芝刈(しばか)りに行ったと。
 梅の古木(ふるぎ)をカッツン、カッツン伐(き)っていると、きれいなお姫様が現れて、
 「爺さ、爺さ、その木は伐らないで」
というた。
 「ほうか、ほんなら他の木を伐るべ」
というと、お姫様は、
 「ありがとう。お礼といっては失礼(しつれい)ですが、私の家でお昼にしませんか」
というて、爺さの手を引いた。

二月の部屋挿絵:かわさき えり
どこをどう連れられて歩いたものやら、まるで覚えのないうちに、
 「はい、着きましたよ」
といわれて見ると、お姫様の家は、でっかいご殿(てん)であったと。そばの小川には酒が流れていて、いい匂(にお)いだと。
 ご殿に上った爺さは、次から次へと出される御馳走(ごちそう)をたらふく食べ、小川の酒をたんまり呑(の)んだ。

 夢ごこちでいると、お姫様が、
 「爺さ、私は町まで買物に行って来ますので、留守番(るすばん)をしていて下(くだ)んせ。ここには一月から十二月までの部屋があります。どの部屋を覗(のぞ)いてもかまいませんが、二月の部屋だけは決して見ないで下んせ」
というて、出掛(でか)けて行ったと。
 爺さは部屋を開けて見たと。
 最初の部屋には、松竹(まつたけ)に〆飾(しめかざ)りが下がって、獅子舞(ししまい)が舞っておった。正月の部屋だったと。
 次の部屋は、
 「ここは見てはならん部屋じゃから」
と、二番目をとばして三番目の部屋を開けると、桃の花が今を盛(さか)りと咲(さ)いて、お雛様(ひなさま)が飾(かざ)ってあった。三月の部屋だったと。

次々部屋を見て、十二月の部屋では、ペッタン、ペッタン餅搗(もちつ)きをしておった。
 部屋を見終わった爺さが、小川の酒を呑んで待っていたら、お姫様が戻った。
 「爺さ、留守番ありがとう。爺さが二月の部屋を覗かなかったので、おかげで用事が済みました。お土産(みやげ)にこのヘラを差し上げます。ご飯を炊(た)く時に、お鍋(なべ)に水を入れて、このヘラでかきまぜながら、『まま炊けろ』といえばご飯が炊けるし、汁でも魚汁(さかなじる)でも、爺さの望(のぞ)むものが炊けます」
 「これは何ともはぁ、ありがたいことだべ」
 爺さは礼をいうて、また、手を引いてもらって、元の木のところへ戻らしてもらったと。

 家に帰った爺さは、婆さに、あれこれ語(かた)って聞かせたと。婆さは、
 「そんなら、早速(さっそく)、試(ため)してみるべし」
というて、釜(かま)に水を入れて火に架(か)け、
 「まま炊けろ」
というたら、本当にご飯が炊けた。
 鍋に水を入れて火に架け、
 「魚汁炊けろ」
というたら、これも出来た。
二月の部屋挿絵:かわさき えり

 二人で喜んで食べたと。
 そしたらそこへ、隣の婆さが「火ッコたもれ」といって、入って来た。二人が食べているものを見て、
 「今日は何(な)して、こったら御馳走があるエ」
と聞いた。
 爺さが訳(わけ)を話してやったら、隣の婆さは、
 「それぁいいこと聞いた」
というて、あたふた帰って行った。
 そして、いやがる爺さを無理やり、山へ追い出したと。
 隣の爺さが真似(まね)をして木を伐っていると、お姫様が現れてご殿に招(まね)かれた。
 留守番を頼まれた隣の爺さは、見ないで、といわれた二月の部屋を、
 「見るなといわれれば、なおさら見たい」
というて、開けて見たと。

 部屋の中では、梅の木の巣(す)で一羽の鶯(うぐいす)が卵を抱(だ)いていたが、見られた鶯は、
ホケキョと啼(な)いて、飛んで部屋から出て行ったと。
 そのとたんに、ご殿も何もかにもが消え失(う)せたと。
 隣の爺さは、元の梅の木の下に、立っておったと。

  とっちばれ。

二月の部屋挿絵:かわさき えり

青森県
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