ありとはと
『蟻と鳩』

― 千葉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに蟻と鳩がおった。
 蟻は地べたを歩きまわり、鳩は木の枝にとまって羽を休ませていたと。
 そしたら、風がピューと吹いて、地べたの蟻が吹き飛んだ。池の中へ落ちたと。
 蟻が溺(おぼ)れてもがいていたら、鳩がこのありさまを見ていて、
 「待ってろ、待ってろ、今、たすけてやる」
と言って、木の葉を一枚くわえて飛び立ち、蟻のところへ落としてやった。
 苦しんでいた蟻は、必死になってその葉へはい上がったと。
 木の葉は風に吹き寄せられて、岸についた。
 地べたに戻った蟻は、ほっとしたと。
 

 挿絵:かわさき えり
 「鳩どん、鳩どん、おかげで命がたすかった。いつか、きっと恩返しをするから」
 「なぁに気にしなくていいよ。それより、せっかく命拾いをしたんだ。今度は気を付けなよ」
 鳩は羽ばたいてどこかに行き、蟻も家に帰ったと。
 しばらくたったある日のこと。蟻が鳩のことを思いながら歩いていたら、一人の鉄砲撃ちが何かを狙っているところに出会った。
 鉄砲の狙っている先を見た蟻はびっくりした。何と、この間大事な命を助けてくれた、あの鳩どんが狙われていた。 

 「こりゃ一大事だ。この鉄砲撃ちめが、俺の命の恩人を、なにすっだ」
 蟻は鉄砲撃ちの足にはい上ったと。
 鉄砲撃ちは気がつかない。蟻は、
 「この、この。この鉄砲撃ちめ、足元見ろ。これでどうだ」
と言って、鉄砲撃ちの足に、思いっきり咬(か)みついた。
 鳩を狙って、いままさに引きがねを引こうとしていた鉄砲撃ちは、チクリという、蟻の仕業(しわざ)に気をとられ、はずみで狙いがそれたと。
 ズドンと飛び出た弾は鳩には当らないで、枝の葉を散らしただけだったと。
 鳩は九死に一生を得(う)ることが出来、蟻も恩返しが出来たと喜んだそうな。

 めでたし、めでたし。 

 挿絵:かわさき えり

 
 

千葉県
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