くびぬきいしょう
『首抜き衣裳』

― 福島県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 平辻 朝子
提供 フジパン株式会社

 昔はね、どこもかしこも貧(まず)しかったでしょ。だから、女子(おなご)は家のことは何でもやらなきゃならなかったの。
 縫(ぬ)い物は特(とく)にそうね。破(やぶ)れ物の繕(つくろ)いや、着物(きもの)を縫い上げるなんてのは当たり前のことだった。なにせ、ダメ嫁(よめ)を評(ひょう)して、“針(はり)も持(も)てない嫁”という言い方があったくらいだもの。
 これはそんなころの話。

 
 むかし、あるところにお針のできない嫁がいたって。
 ある日のこと、姑(しゅうとめ)さまが、
 「何も縫えねえというても、腰巻(こしまき)ぐらいは縫われるべ」
言うて、布(ぬの)買ってきて嫁に渡(わた)したと。
 嫁は、毎晩(まいばん)げ、夜鍋仕事(よなべしごと)に持ち出してはチクチク縫っておった。したが、幾晩(いくばん)かかっても一向(いっこう)に仕上(しあ)がる様子(ようす)がない。
 
首抜き衣裳挿絵:かわさき えり

 
 見かねた姑さま、
 「どれ、貸(か)してみろ」
と言うて、針に頭脂(あたまあぶら)つけて縫い始めたと。さっさか、さっさか針を運んで、紐(ひも)まで付(つ)けて、
 「ほれ、出来(でき)た」
と渡したら、嫁はすまして、
 「あれまあ早いこと。おらが毎晩針立てて布(きれ)に穴(あな)をあけておいたから、楽(らく)だったべ」
と、こう言うたと。

 
 その嫁であったかどうか、まず似(に)たような針の出来ない嫁の話だが、
 「婿殿(むこどの)が山へ行くときに着る山着(やまぎ)を作れ」
と、姑さまから反物(たんもの)渡されたと。
 嫁は、縫えねえ、なんて金輪際(こんりんざい)言いたくない。夜っぱら、その反物をこねくりまわしていたが、襟(えり)のあたりが面倒(めんどう)で面倒で、何とも仕様(しよう)がない。 
 鍋(なべ)のふたを持ってきて布に当て、丸(まる)く印(しるし)をつけて、そこをハサミでくり抜き、婿殿に着せてみたと。


 かますの底(そこ)に穴をあけたようなものをスポンと着せられて、何とも困(こま)った婿殿、にやりと口元半分笑(わら)ったところ、嫁は、
 「あれまあ、男のくせに、新しい衣裳(いしょう)出来たんで嬉(うれ)しがってござる」
と言うて、手え打(う)って笑っていたと。
 
首抜き衣裳挿絵:かわさき えり

 
 これもまた、似たような話。
 婿殿の股引(ももひき)が随分(ずいぶん)ボロになったというて、姑さまが嫁に反物渡したと。
 嫁は毎晩せっせと縫っておった。
 ある晩、姑さまが嫁のやっているさまを見たら、嫁は新しい反物をハサミでチョキチョキ切っては、ボロボロの股引に当(あ)て継(つ)ぎをしている。
 「はて」
と、目ん玉動かしてあっち見、こっち見いしたが、新しく縫い上げた股引が一枚も見当たらない。
 「嫁、嫁、この間渡した反物で作った股引な、どこにある」
と訊(き)いた。そしたら嫁は、すまして、
 「はええ?あれはみんな継ぎ布(ぎれ)に使うた。股引、あんまりボロになっていたもんで、ちょうどいい継ぎ布だったす。見て呉(く)なんしょ。これ、これっきりしか残っていねえ」
と、ちんこい端布(はぎれ)を見せたと。

 
 股引くらいなら、一反(いったん)の反物で三枚は出来るのに、嫁はその三枚分の布を切りきざんで、みんな当て布に使ってしまったんだと。

  ざっとはらった。

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