おしょうさんときつね
『和尚さんと狐』

― 岐阜県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに和尚(おしょう)さんと小僧(こぞう)さんがおったと。
 ある秋の日、和尚さんと小僧さんが檀家(だんか)の法事(ほうじ)をすませてお寺(てら)へ帰る道を歩いていたと。
 空は晴(は)れとるし、草花(くさばな)は咲(さ)いとるし、道端(みちばた)の石に腰(こし)かけて、和尚さん一服(いっぷく)した。


 そしたら、小僧さんが、
 「あれ、小っさな犬(いぬ)じゃ」
言うて、茂(しげ)みの中からこんまい赤犬(あかいぬ)を捕(とら)えて来た。
 「どれどれ、こりゃ犬ではないぞ。子狐(こぎつね)じゃ。親(おや)にはぐれたんじゃろ。寺へ連(つ)れ帰って飼(こ)うておこう」
 和尚さんは、子狐を小僧さんに抱(だ)かせて寺へ帰り、箱(はこ)を巣(す)にしてやったと。
和尚さんと狐挿絵:かわさき えり


 そしたら、寺に来る者たちが珍(めずら)しがって食べ物をやるので、すっかり人に慣(な)れたと。
 少しずつ大きくなっていき、独(ひと)りでコロコロ遊(あそ)びをしたり、近所の子供とじゃれあったり、その姿が愛(あい)らしいと、大人気(だいにんき)だと。

 そんなある日、この寺の本寺(ほんでら)からお使(つか)いが来た。
 「今夜、本寺の和尚さまが所用(しょよう)の途次(とじ)、立ち寄(よ)りたい」
とのことづてだ。
 和尚さんは深(ふか)く考(かんが)えもせんと、
 「承知(しょうち)いたしました。お待ちしております」
と、こたえ、使いを帰すと、座敷(ざしき)を片(かた)づけたり、御馳走(ごちそう)を作ったりして待ったと。


 夜も大分(だいぶん)更(ふ)けたころ、本寺の和尚さま一行(いっこう)が提灯(ちょうちん)さげて寺へ入って来た。座敷へ通し、お茶を出し、料理(りょうり)も出したが本寺の和尚さまはそれらには手も出さず、
 「御寺(おんじ)では先頃(さきごろ)から子狐を飼っていられますそうで、なかなかの評判(ひょうばん)。ぜひ見せてもらいたいのだが」
と言うた。和尚さんが小僧さんに言うて連れて来させたと。
 本寺の和尚さまは子狐を膝(ひざ)の上に抱きあげ行燈(あんどん)を引き寄せて、つくづく眺(なが)めてから、
 「これはこれは、可愛(かわい)い子狐ですなあ。よく肥(こ)えている。みなさんが可愛がって育てられたのがよく分かる」
と、頭をなでたり頬(ほお)ずりをしたりしたと。
 子狐も、初めての人なのにおとなしく抱かれている。


 和尚さんは嬉(うれ)しくなって、
 「とても動物(どうぶつ)がお好(す)きのようですなあ」
と言うと、
 「私は生(せい)あるものは皆(みな)可愛いのです。ですが、この子狐は格別(かくべつ)ですな。私に抱かれてもう眠(ねむ)りましたよ。母親(ははおや)にはぐれた子狐も、私の膝の上では安心(あんしん)したのでしょう」
と言うて、子狐をしきりになぜていた。
 そのうち急(きゅう)に改(あらた)まって、
 「実は、今夜は特(とく)にお頼(たの)みしたいことがあって参(まい)りました。内密(ないみつ)のことですからお人払(ひとばら)い下さい。それから供(とも)の者に文箱(ふばこ)を預(あず)けてありますので、それを受け取って来て下さるようお願い出来ますかな」
と言うたと。


 和尚さんはすぐに小僧を引き下がらせ、文箱を自分で受け取りに行ったと。
 そしたら、供の者は一人もいなくなっていた。外へ出て捜(さが)してみたが、見つからないのだと。
 「本寺の和尚さまを置(お)いて帰るわけはないし、はて、どこへ行ったやら」
と、不思議(ふしぎ)に思いながら座敷へ戻ってみると、なんと、本寺の和尚さまもいなくなっていた。手水(ちょうず)にでも立たれたかと、方々(ほうぼう)捜してみたがやはりどこにもいない。
 「はて」
と、捜しあぐねて何気(なにげ)なく障子(しょうじ)を見ると、黄色(きいろ)の毛がこすれ取れたようについている。座布団(さぶとん)にも同じ毛がついている。よくよく見てはたと気づいた。


 「ありゃ、やられたわい。親狐(おやぎつね)め、子狐をとり戻しに来おったんじゃ。いやあ、わしとしたことがすっかり化(ば)かされてしもた」
 和尚さん、口惜(くや)しいどころか、嬉しくなって、腹(はら)ぁかかえて笑ったと。
 
  しゃみしゃっきり。

 
和尚さんと狐挿絵:かわさき えり

岐阜県
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