かさじぞう
『笠地蔵』

― 群馬県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに貧乏(びんぼう)な爺(じ)さと婆(ば)さがいてあったと。
 年越(としこ)しの前の日に爺さは、山から松の枝を取ってきて、
 「婆さ、これを売って帰りにゃミカンとイワシを買うてくるで」
というて、町へ売りに行ったと。
 吹雪(ふぶ)いているなかを蓑(みの)と笠(かさ)を身につけた爺さが、
 「まつー、まつー」
と呼んでみたが、あまり大雪なので戸を開ける家がない。夕方になってもひとつとて売れなかった。
 爺さはあきらめて帰ることにしたと。

 帰り途中(とちゅう)で、道端(みちばた)のお地蔵様(じぞうさま)が雪にうずもれて立っているのに気がついた。
 爺さはかわいそうに思うて、その雪を払い落として、自分がまとっていた蓑(みの)と笠(かさ)を着せかけて、
 「寒いだろうが、今少しの辛棒(しんぼう)だで」
というて、家に帰ったと。
 
笠地蔵挿絵:かわさき えり

 婆さに、
 「だめだった」
とがっかりしていうたら、婆さは
 「そんでは私が織った白木綿(しろもめん)の布(ぬの)があるから、あれを売ったらどうですか」
というた。
 
 次の朝、爺さは婆さの織った白木綿の布を持って、町へ売りに出掛けたと。
 ところが、しばらくして爺さは手ぶらで帰ってきた。婆さが
 「あれ、ずいぶん早かったね」
と尋ねると、爺さは、
 「ああ、いや、町まで行かなかった。途中で昨日のお地蔵様が蓑と笠だけでふるえていらっしゃるから、それだけでは寒かろうと思うて、婆さの白木綿を体中に巻(ま)きつけてやった」
とすまなそうにいう。

 「そうかえ、正月迎えの用意(ようい)が出来なくても、お正月さまはどんな貧乏(びんぼう)たれの所へもくるから」
となぐさめて、温(ぬく)い粟粥(あわがゆ)食べて寝(ね)たと。
すると、真夜中(まよなか)ごろに、どこからともなく
 
  〽 じぞう かねダニ よいとこしょ
  〽 爺さが家どこへ  よいとこしょ
 
と歌うのが聞こえてきた。
 
 その声がだんだん近づいて来て、爺さの家の前まで来ると、
 「爺さいたか、いたか、あんまり寒いから開けとくれ」
というのだと。

 爺さが起きて戸を開けると、戸の前にお地蔵様が凍(こお)って横になっていた。
 爺さと婆さが二人してお地蔵様の頭と足とを持ち、囲炉裏端(いろりばた)へ寝かせて、火をどんどこどんどこ燃(も)して温めてあげたと。
 氷が解(と)けてくると、お地蔵様のからだから
 ピシッ ジャラン ピシッ ジャラン
と音がした。
 爺さと婆さが、その氷の解ける音を聞きながら、火に温もっていたら、いつの間にか二人とも眠(ねむ)ってしもうた。

 朝間(あさま)になって目を覚(さ)ましたら、お地蔵様の姿はなかった。
 そのかわり、その型どおりに、ぴかぴか光る小判が山と積まさってあった。
 貧乏だった爺さと婆さは、大層(たいそう)お金持ちになり、一生安楽(いっしょうあんらく)に暮(く)らしたと。
 
 いちがさかえた。
笠地蔵挿絵:かわさき えり

群馬県
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