えさしのしげじろう かんのんとやすみ
『江差の繁次郎「観音と休み」』

― 北海道江差町 ―
語り 平辻 朝子
再話 佐々木 達司
整理・加筆 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 江差(えさし)の繁次郎(しげじろう)は怠け者であったと。
 ニシン場(ば)では、次から次へと水揚(みずあげ)されるニシンを、モッコに入れて運ぶ者、仕分(しわ)けする者、腹子(はらこ)をかき出す者、ミガキ用に干(ほ)す者と、皆々まるで戦場のように忙がしく働いているというのに、繁次郎は働くのが嫌で仕方がない。何とか働かなくてすむ方法はないものかと思案(しあん)したと。やがてニンマリすると親方のところへ行った。神妙(しんみょう)な顔をして、
 「親方(おやかた)、ひとつ頼(たの)みごとあって来たジャ」
 「何だバ、繁次郎」
 「俺、今度、観音(かんのん)さま信心(しんじん)することにしたバテ良(よ)ごすべガナ」

江差の繁次郎「観音と休み」挿絵:かわさき えり
 「良いも何(な)も、繁次郎ァまだ、どうしたテ、そした心持(こころもつ)ネなったバ」
 「親方ァ恵比寿(えびす)さま信心しているのをみてサ、俺もなんか信心するべと思ったベサ」
 親方、すっかり感心したと。
 「そうか、そうか」
 「そこでひとつ相談あるベサ、観音さまの日だけ、俺バ休ませて呉(け)ヘンガ」
と頼んだ。親方は、

 「それァいいことだ。観音さまの日ァ、今度から休んでもよいハデ」
と、許してくれたと。
 それからというもの、繁次郎は毎日毎日ぶらぶらぶらぶらするようになった。親方が、
 「繁次郎、毎日遊んでねデ、少しは仕事したらどうだバ」
と叱ると、繁次郎は口(くち)をとがらせて、
 「したバテ親方ァ、観音さまの日だバ休んでもいいテ、して呉たっショ」
というた。
 「観音さまの日だば休んでいいバテ、あどの日働けばいいデバ」
というたら、繁次郎、ここぞとばかりに澄(す)まして、
 「観音さまァ三十三あるもだネ。一ヶ月ァ三十日だハデ、毎日休んでも、親方サ三日ずつ貸しがあるデバ」
 こういうた。
 親方ァ、目を点にして、開いた口がふさがらなかったと。

江差の繁次郎「観音と休み」挿絵:かわさき えり
 繁次郎は、毎日遊んで手間賃(てまちん)をもらったと。

 とっちぱれ。

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