よめとしゅうとめ
『嫁と姑女』

― 茨城県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 昔昔、あるところに八百屋(やおや)があった。
 八百屋は魚屋の娘を嫁に貰(もろ)うたと。
 嫁はこまめに働くし、威勢はいいし、姑女さんも大層嬉(よろこ)んでおった。
 月日が経って、嫁はこの家にすっかり馴(な)れた。そしたら、
 「おっかさん、今日はボタ餅こさえる」
 「おっかさん、今日は五目飯たく」
 「おっかさん、今日鍋物にしよう」
という具合で、おまけに食っちゃ寝するようなった。
 贅沢(ぜいたく)で我儘(わがまま)で怠けるようになった嫁を、どういうて諌(いさ)めたらいいか、姑女さん、頭を悩ましたと。 

 十日も二十日も三十日も、考えて、考えて、考えぬいて、八百屋らしく青物尽(あおものづく)しで意見することにしたと。
 どういう文句にするか、それからまた、十日も二十日も三十日も考えて、ようやく出来た。姑女さん、嫁に、
 「これ嫁菜(よめな)、ここへ黄粉(きなこ)。浅葱(あさつき)からうとうととしてからに。

挿絵:かわさき えり

 なぜ豆々(まめまめ)蓮根(れんこん)精根(せいこん)を出しやらぬ。なんぼ馬鹿でも牛蒡(ごんぼ)でも、手さえかければ梅(うめ)くなる。これ嫁菜、そんな目ぇして大蒜(にんにく)しと韮(にら)むのは生姜(しょうが)恐ろしいぞや。そんなことでは隠元(いんげん)」
というた。言うたところが嫁は、フーンとせせら笑(わろ)うて、すぐに、
 「おっかさん、鯒(こち)へ鯉(こい)とて針魚(さより)てみれば、赤い火魚(かながしら)みてよな頭をふりたてて鰯(いわし)やんす。なんぼ馬鹿でもワカシでも、嫁は鰤(ぶり)の出世魚(※)、いつかはおっかさんになるわいな。もちいと鯖(さば)けて泥鰌(どじょう)」
と魚尽(うおづく)しで切り返した。 

 これには姑女さん、すっかり感心してしもうた。
 「俺が三十日もかかってこさえた文句を、お前(め)は、あっという間にこさえてしもうた。とてもかなわぬ。降参だ。これより杓子渡(しゃくしわた)しをする」
 こんどは嫁がびっくりした。杓子渡し、いうたら、台所をまかすということだ。つまり家内(いえうち)のことはすべて嫁が取り仕切り、姑女さんは隠居するということだ。
 説教されたり、言い返したり、どころの騒ぎでない。 

 「あの、おっかさん。それではさばさばし過ぎだ。俺では分(わか)かんねことばっかしで」
 「なに、お前が俺よりどれほど賢いか判ったからには、なんにも心配しね。さっ、この杓子(しゃくし)、受けとってくれ」
 嫁は杓子渡されたら、我儘も贅沢も怠けもしなくなったと。姑女さんを大層立てるようになり、上手に家を盛りたてたと。

 いちごさけた。

 (※)出世魚:ブリ科では、ワカシ、イナダ、ボラ、スズキ、ブリと成長によって名が変わる魚。
 

 挿絵:かわさき えり

 
 

茨城県
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