だいくとおにろく
『大工と鬼六』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに、たいそう流れの速い川があったと。
 何べんも橋を架(か)けたことはあるのだが、架けるたんびに押し流されてしまう。
 「なじょしたら、この川に橋を架けられるべ」
 村の人らは額(ひたい)を集めて相談したそうな。
 「この近在で一番名高い大工どんに頼んだがよかんべ」
 皆の考えがまとまって、その大工どんに頼みに行ったと。
 とびっきり腕のいい大工どんは、仕事を引き受けたものの、どうも心配でならん。
 そこで、橋架けをたのまれた川へ行って見たそうな。
 川は、ごうごう音をたてて流れている。
 

 挿絵:かわさき えり
 「なるほど、流れがきつい上に川の幅(はば)も広いと、きた。はてさて、これぁとんだ仕事を引き受けたわい」
 岸にしゃがんで思案(しあん)しとったら、川に大きなアブクがブクブク浮んで、ザバーと大きな鬼が顔を出した。
 「おぉい さっきから何を思案しとる」
 「うん、おれは今度ここへ橋架けを頼まれた大工だが、なじょしたらがんじょうな橋を架けられるかと思っていたところだ」
 

 「とんでもねぇ、お前がいくら上手な大工でも、ここさ橋は架けらんねぇ。けんど、お前がその目ん玉をよこすならば、俺(おれ)が代(かわ)って橋を架けてやってもよかんべ」
 「おれは、どうでもいいがの」
 大工どんは、目ん玉よこせとは、あんまりにも思案のそとの話なので、なま返事をして家に帰ったそうな。
 次の日、川へ行って見ておどろいた。何んと、もう橋が半分ほど架かっておる。
 また次の日、川へ見に行ったら、橋が立派に出来あがっとった。
 向こうからこっちまで、それは見事な橋だったと。
 大工どんがたまげてながめておると、川から鬼がザバ―と顔を出して、
 「どうだ、こんな橋は人間には架けられんだろう。さあ、目ん玉 よこせ」
というんだと。
 大工どんは、あわてて、
 

 「ちょ、ちょっと待ってくろ、今、目ん玉をやると、鬼の橋の架け方を見ることも出来ん。おれも大工だ、せめてもう一日、こんな見事な橋の架け方を見ておきたい」
 「ほうか、んなら明日だぞ」
 鬼が川の中へ沈(しず)もうとしたら、
 「ちょ、ちょっと待ってくろ、お前は、鬼の世界でも、さぞかし名のある大工にちがいない。是非(ぜひ)名前を教えてくろ」
 鬼は、名のある大工と言われて嬉(うれ)しくなった。

挿絵:かわさき えり

 「俺の名前を当ててみろ、そしたら目ん玉は勘弁(かんべん)してやろう。明日までだぞ」
 こう言って消えたと。
 大工どんは、
 「名前なんぞ分かる訳けねぇ、どうしたらよかんべ」
と、独(ひと)り言(ごと)を言(い)いながら当てもなく歩いとると、いつの間にやら山ん中に入っとったと。
 山ん中を、あっちこっち歩いとると、遠くから子供の唄(うた)う声が聞こえてきた。

 早く 鬼六(おにろく)ぁ 目ん玉ぁ
 持って来(こ)ばぁ ええなあ

 大工どんはそれを聞くと、
 「ほうか、鬼の名前は鬼六か」
と気付いて、家に戻ったと。
 さて、次の日、大工どんが川の橋のところへ行くと、すぐに鬼が浮いて出た。
 「やい、早く目ん玉ぁよこせ。それとも、俺の名前を当てられっか?」
 

 
 鬼は、そう言って、にかり、にかり笑ったと。
 「よし、大工が目ん玉を取られては仕事になんねぇ、お前の名前を当ててやる」
 「いいか、お前の名前は強太郎だ」
 大工は、口から出まかせを言ってやった。
 鬼は、子供のように喜こんで
 「うんにゃ、違う」
 「そんならお前は、鬼のおん吉(きち)」
 「やめとけ、やめとけ」
 「今度は当てるぞ いいかぁ」
 大工どんは息をいっぱい吸い込んでから、うんと大きい声で
 「鬼六っ!」
と叫んだ
 鬼は、ぽかっと消えて、それっきり姿を見せんようになったと。

 どんとはらい。 

岩手県
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