くもおんな
『蜘蛛女』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 昔あるどごろに、小間物(こまもの)の行商(あきない)している男がいであったど。
 ある在郷(ざいごう)を行商して歩(あり)いている内(うち)に、道に迷ってしまったど。行けば行ぐほど山深くなって、すっかりまいってしまったど。
 そしたら、ちょうどいい按配(あんばい)に、谷底(たにそこ)に古寺(ふるでら)が見つかったんだど。小間売りは喜んでその古寺に行って見たど。
 人っコが誰もいねえ、空寺(からでら)だっだど。
 そんで、中に入(へえ)って、囲炉裏(いろり)に火を焚(た)いであだっていたど。
 なんだが、ぶるって来るようなさびしい気分になってるど、本堂の方がら、誰だか来るようたど。
 

 挿絵:かわさき えり
 誰だろ、と思って襖開(ふすまあ)げたど。
 そしたら、美しい女(おなご)が入って来たんたど。
 「三味線(しゃみせん)聞かせんべえ」
 って、三味線をザンコ、ザンコ弾(ひ)き鳴(な)らしたど。
 

 すっと、不思議なごどに、小間物売りの男の首に、キリキリッと、糸が掛かって、首絞(し)められたど。男は、
 「これぁいかん」
と思って、箱から小刀(こがたな)を出して、その糸を切ったんだど。すっと女は、
 「これ、お客さま、もっと三味線聞いてくれじゃあ」
 って、三味線持ち替(か)えで、またザンコ、ザンコど弾いだんだど。
 そしたらまた、男の首に糸巻きついたど。
 そして、キリッと絞めたど。
 そんで男は、また、小刀でその糸をカリリと切ったど。
 そんなことが何回(なんけえ)も続いたど。
 そして夜中になったど。
 男は思い切って、小刀でその女を刺したど。
 

 挿絵:かわさき えり
 したら女は、
 「あれー、お客さまは何をするの」
 って、荒々しぐ二階へ駆(か)け上がって行ったど。
 男は、早ぐ夜が明ければいいがと思っていたど。
 

 そのうちに夜が明けたんで、あの女はなじょになったべ、と思って二階へ上って見だら何もいねがったど。
 不思議だなと思って、あっちこっち探したっけぁ、隅っコの方に大っきなザルのようなものが、
 「ウ―ン、ウ―ン」
 ど、うなってらったど。
 よっぐ見るど、それは大っきな古蜘蛛(ふるぐも)だったど。男は、
 「こんなもん、生がしておがんねえ」
 って、すっかり切り殺したど。

 どんとはらい。 

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