ひたきちょうじゃ
『火焚き長者』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 平野 直
整理 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかしむかし、あるところに貧乏な夫婦者(ふうふもん)がいたと。女房が、
 「明日(あした)はお正月さまござらっしゃるから、おらの作った笠(かさ)こば売ってきて、それで白い米(まま)買うてきて呉(け)さい」
というた。
 夫は、大晦日(おおみそか)の晩、笠こを持って町にやって来た。
 「笠こやー、笠こやー」
と触れて、町の中を売り歩いたが、どこの家(いえ)も年越しで忙がしくて見向いてもくれない。
 「仕方なかんべじゃ」
と、家へ帰ろうとしたら、向こうから、
 「炭こやー、炭こやー」
 

 と、爺さまが炭俵を背負(しょ)ってやってきた。
 「爺さまや、炭こ売れすか」
ときくと、爺さまは首を振って、
 「さっぱり駄目だや」
という。
 「んでは、おらの笠ことその炭こば取り替えっこすっぺや」
 「んだか、んだらば」
と、笠こと炭ことを替(か)えっこしたと。
 「んでは、いいお正月すさい」
 「んだ、お前さまもな」
といいあって、二人はそれぞれ家さ戻った。
 「お正月さまがござらっしゃるのに、米ねえとは、おら嫌(や)んでがす」
と女房がぶつこいて寝てしまったと。夫は、
 「んだけんども、おらのせいばかりであんめえや」
 

 と怒って、炉(ろ)に炭をいっぱいくべた。
 火はかっか、かっかとおこって、炉のへりが焦(こ)げるくらいよく燃えた。家の中がたちまちあったかくなった。
 すると、家の隅(すみ)の方から声がした。
 「熱いなや、熱いなや。おら汗(あせ)こかいてしまったなや」
 「んだなや、こんなに熱くてはここの家さいること出来ねぇべや」
 「んだ、んだ、みんなでここの家から出て行くべや」
 「んではなや、ながいことこの家さいたんだから、何か土産(みやげ)置いていくべや」
 「んでは、白い米と魚(とと)置いていくべ」
と、、家の隅々から云(い)いあっている。ややあって、土間(どま)の方でドサッと音がした。
 夫が何の音だと思って土間を見ると、小人が数人、家から出て行くところだった。
 「汗こかいて仕方ねえ」
 「忘れ物、無(ね)えがや」
 「ささ、行くっぺ」
というている。
 

 挿絵:かわさき えり
 ちょうどそのとき、戸口(とぐち)へ白いヒゲをはやかした爺さまあらわれて、
 「お前(め)たち、まだいたか」
と叱(しか)った。
 

 「おらたち、今この家から出て行くとこでがす」
 「早くいげ、いげ」
とその爺さまの股の下をくぐったと。
 そのとたん、小人たちの姿はかき消えた。
 白いヒゲの爺さま、家の中へ入って来たと。入って来たと思ったら、その爺さまも消えた。
 夫はあまりの不思議(ふしぎ)に、女房をゆり起こして今あったことを話したと。女房は不審(ふしん)げに、
 「そったらごとあっぺが」
というので、夫は土間を指(ゆび)さした。そこには米俵(こめだわら)と魚が置いてあったと。
 それを見た女房は、たちまち目が醒(さ)めて、
 「んでは、いまからお正月さまの支度すっぺ」
といそいそと米とぎを始めた。
 それ以来、この家はだんだんと福々(ふくぶく)しくなったので、村人たちは火焚(ひた)き長者(ちょうじゃ)と呼ぶようになった。
 こんなことがあってから、大晦日に大火(おおび)を焚く家が多くなったと。

 どんどはらい。
 

 挿絵:かわさき えり

岩手県
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