こぶとりじいさん
『こぶとり爺さん』

― 岩手県上閉伊郡 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 昔、むかし、あるところに額(ひたい)に拳(こぶし)ほどの瘤(こぶ)のある爺さまが二人あったと。
 二人の爺さまは瘤がみっともないから取ってもらおうと思い、山奥のお宮に詣(まい)って、神様に願(がん)かけの為に夜(よる)ごもりをしていたと。
 あるとき、真夜中ごろになって、遠くの方から笛や太鼓のはやしの音が聞こえてきた。
 こんな夜の夜中に、何事だろうと思っていたら、その音が段々に近づいて、鳥居のところまでやってきている。

 とれれ とれれ
 とひゃら とひゃら
 すととん すととん

 

 と、はやしの音がもうお宮の前で聞こえてきた。
 わけが分からないので、二人の爺さまは片すみに隠(かく)れようとした。
 そこへお宮の戸がガラリと開いて、なんと、六尺(ろくしゃく)もある、顔の赤い鼻の高い天狗共が五、六人連れで入ってきた。

 とれれ とれれ
 とひゃら とひゃら
 すととん すととん

 と、天狗どもははやしている。が、はやしばかりで舞い手が居ない。
 「お前、舞え」
 「いや、お前が舞え」
と、互いに舞いをすすめるが、どうもこの中には舞いの出来るものが居ないらしい。
 

 一人の天狗がいまいましそうに、
 「ちぇ」
といって片わらを見たとたんに、隠れていた二人の爺さまが見つかったと。
 「何だ、人間の爺どもがいたぞ。お前たち舞を舞ってくれ」
といって、手前の爺さまの袖を引っ張って、みんなの前へ突き出したと。
 その爺さま、はじめは怖くてふるえていたが、天狗達のはやしがなかなかおもしろいので興(きょう)に乗って踊り出した。

 くるみはぱっぱ ぱあくずく
 おさなきゃぁつの おっかっかぁの
 ちゃるるう すってんがあ

 と、三度くり返して歌いながら、舞ったと。
 

 挿絵:かわさき えり
 天狗どもは大層喜んで、手を叩いて誉めたと。
 「せっかくの好(よ)い舞だが、どうも、お前の額の瘤が目ざわりだ。面の造りがよく見えないな。どれ、その瘤をとってやろう」
といいながら、天狗は爺さまの額の瘤を取ってしまったと。
 

 爺さまは、急に頭が軽くなって、大喜びで引きさがった。
 その次に、もう一人の爺さまが、丸座(まるざ)の真ん中に引き出された。
 「こんどはお前だ。楽しく舞えよ」
といって、天狗どもは、

 とれれ とれれ
 とひゃら とひゃら
 すととん すととん

 と、はやしはじめた。
 が、この爺さま、天狗があまりに怖くて、身体(からだ)がふるえて、膝(ひざ)がガクガクだったと。
 

 それでもせきたてられて、仕方なく、

 ふるきり ふるきり ふるえんざあ
 こおさめ(小雨)の降るときは いかにさみしや
 かろらんとも すってんがあ

 と、歌いながら踊った。けれども、声がふるえ、歯もガチガチいうて合うてないし、おまけに調子も低かった。
 陽気好きの天狗どもはいやな顔をして、
 「もう少し、元気よくやってくれ」
というた。
 爺さまは、そう言われるといよいよ縮み上がって、とうとう立っていられなくなった。尻餅(しりもち)ついて、泣き出したと。天狗どもは、
 「臆病にもほどがある。せっかくの面白い舞も、泣きつぶされてしまった。お前のような爺には、二度と会いたくない。さあ、この瘤でも持って帰れ」
と言って、先(さっき)、もう一人の爺さまから取った瘤を、この爺さまの鼻の上に投げつけた。
 

 爺さま、びっくりして鼻の上をこすってみると、額にあった前の瘤に加えてもうひとつ鼻に瘤が出来てあった。
 この爺さま、二目と見られない顔になったと。

 どんとはらい。
 

 挿絵:かわさき えり

岩手県
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