ざしきわらし
『座敷わらし』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 東北のふるい家には、座敷わらしという子供の神さまが棲(す)んでいるそうな。
 誰もいない奥座敷(おくざしき)で、トタトタと駆(か)けまわる音をさせたり、ザワッザワッと、ほうきで掃く音をさせたりする。
 時には枕返しといういたずらをする。
 目が覚めてみると、いつの間にか、くるりと反対に寝ていることがある。そういうのが枕返しだ。
 岩手県花巻の関庄三郎(せきしょうざぶろう)という人の家にも、座敷わらしがいるといわれていた。馬車ひきの善吉(ぜんきち)が八歳の頃、関の家にでまざまざと見たという。
 そのとき、近所の子供たちが関の家に集まって、かくれんぼをしていた。善吉が鬼になったので、あちらのすみ、こちらの物陰(ものかげ)と、子供たちをみつけて歩いていると、くくっとかわいい含み笑いが聞こえたように思った。
 

 挿絵:かわさき えり
 それとばかりにうかがうと、米俵(こめだわら)を積みあげてある隙間(すきま)に、透きとおるように色の白い、赤い着物を着た、おかっぱ頭の子が隠(かく)れている。
 「いたど」
と、指差しながら近づいたが、あの子でもない、この子でもない。はて、どこの子だろう。あ、座敷わらし……と思ったとたん、ぞわっとからだがそそけだった。
 

 するとその子は、きれいな白い歯をみせて、にこにことわらったが、ひらっと見えなくなったという。帯もちゃんとしていたと。

 岩手県稗貫郡(ひえぬきぐん)亀ヶ森(かめがもり)の高橋という家にも、座敷わらしがいるといわれていた。
 この家のおじにあたる男(ひと)に、肝のすわったのがいて、一度座敷わらしに会ってみたいと、奥座敷に寝てみたそうな。その座敷には座敷わらしが出ると言い伝えられているが、寝る者がなかった。
 さて、ランプの芯(しん)を細くして、ほんのりとした火陰(ほかげ)でうとうとしていると、いつの間にか自分と一緒に寝ているものがある。
 はっと目を覚ますと、おかっぱ頭の透きとおるように色白のわらしが蒲団(ふとん)に入って寝ているのだった。
 

 それを見ると、さすがの肝のすわった男も水を浴びたような心持ちになった。
 するとわらしは目を覚まし、何とも言えぬ美しい顔でにこにことわらったが、ぱっととび出して逃げて行ってしまった。三つ位の裸(はだか)んぼの子だったと。今もその家にいて、誰でもその座敷に寝ると、きっとふところに入ってくるという。

 座敷わらしは、学校にも出たそうな。
 これも岩手県の遠野町の小学校が、まだ南部(なんぶ)さまの米蔵(こめぐら)を校舎につかっていた頃、座敷わらしが出た。
 見た人の話だと、夜九時ごろ、玄関の戸の隙間から、白い着物を着た六、七歳のわらしが入ってきて、机や椅子(いす)の間をくぐったり、トタトタと駆けまわって遊んでいたと。
 

 遠野から近い上閉伊郡(かみへいぐん)土淵村(つちぶちむら)の小学校にもわらしが出たという。
 小さな子と一緒になってかくれんぼをしたり、走りまわって楽しそうに遊んでいる。毎日遊んでいる。
 ところが、座敷わらしが見えるのは一年生の子ばかりで、ほれ、そこにいる、あっちへ行ったと教えられても、先生や大きい子には見えない。
 それを聞いて遠野の小学校から、わざわざ見に来たが、やっぱり一年生の子の目にしか見えなかったそうな。

 どんとはらい。 

 挿絵:かわさき えり

岩手県
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