へびのめだま
『蛇の目玉』

― 岩手県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに貧(まず)しい木樵り(きこり)がおったと。
 あるとき木樵りが山へ入るとどこからか女のうめき声が聞こえてきた。声のする方に近づいてみると、何と、きれいな娘(むすめ)が、黒くて長い髪(かみ)の毛を木にグルグル巻きつけて身動き出来ないでいた。息も絶え絶え(たえだえ)だったと。
 木樵りが、
 「なしてまぁ、こんな目にあった」
と言いながら、木に巻きついた髪の毛を解(ほど)いてやると、娘はやっとのことで目を開け、涙(なみだ)を流したと。 

 挿絵:かわさき えり
 木樵りは、娘を背負って家へ連れ帰り、温(ぬく)めてやったり粥(かゆ)をすすらせたりした。毎日看病(かんびょう)しているうちに情が通(かよ)って、木樵りと娘は夫婦(みょうと)になったと。 

 やがて赤児(あかご)が産まれるときに、女房(にょうぼう)が、
 「決して産屋(うぶや)を覗(のぞ)かないで下さい」
と言うた。
 木樵りは言われたとおりに産屋には行かないでいたが、二日経っても、三日経っても女房が産屋から出てこないので心配(しんぱい)でならない。板の節穴(ふしあな)からそおっと覗いたと。
 すると、産屋の内(なか)に大蛇(だいじゃ)がいて、赤ン坊を抱くようにトグロを巻いていた。木樵りは腰(こし)を抜かすほどびっくりしたと。

 七日目になって、女房は男の赤ン坊を抱いて産屋から出て来た。そして、ほろほろと涙を流して、 

 「あれほど中を見てはいけませんとお頼(たの)みしましたのに……。私は女人禁制(にょにんきんせい)の山に入って山の神の怒り(いかり)に触(ふ)れ蛇にされて、沼の主となっていましたが、山の神にお願いをして一度だけ娘の姿に戻(もど)してもらいました。お前さまが産屋を覗かなければ、私はそのまま人間でいることが許(ゆる)されるはずでした。
 でも、それももう叶(かな)わなくなりました。私はすぐに山の沼へ帰らなくてはなりません。どうぞこの子を大事に育てて下さい。この子が泣くときには、これを舐めさせて下さい」
と言うて、自分の左の目をくり抜(ぬ)いて木樵りに渡したと。
 女房はだんだんに蛇の姿に変って、名残(なごり)惜(お)しそうに山の中へ姿を消したと。 

 赤ン坊は、母の目玉をしゃぶってスクスク育ったと。しかし、その目玉も月日がたつにつれて小さくなり、とうとうしゃぶりつくしてしまった。
 目玉がなくなると赤ン坊は何を与えても泣き止まない。困った木樵りは赤ン坊を背負って、山の沼へ女房を探しに行ったと。山の大っきな沼に着いて、
 「おっ母ぁ、どこだぁ」
と呼んだ。すると、沼の水が渦巻(うずま)いて、片目の大きな蛇が現われた。木樵りが、
 「お前にもらった目玉を舐めつくしてしまった。どうしたらいいか」
と言うと、蛇は、 

 「それではもう片方の目をあげましょう。これで私は夜明けも日暮れも判(わか)らなくなります。それで、この沼の近くに鐘(かね)を吊(つる)して朝夕の時刻(とき)を教えて下さい」
と言うて、残っていた右の目をくり抜いて赤ン坊に握(にぎ)らせた。そして、
 「元気に育ちなさいよー」
と言うて、沼の中へ沈(しず)んで行ったと。
 木樵りは、沼の近くに鐘を吊るし、朝な夕なにその鐘をついて、沼の蛇に時刻を報(しら)せたそうな。 

 赤ン坊は、再び母の目玉をしゃぶって大きくなったと。そして十歳になった頃(ころ)、木樵りは子供に、
 「お前の母(かか)さまは山の沼の主になっている」
と教えてやった。子供は母親に会いたくてたまらなくなった。ある日、一人で山の沼へ訪(たず)ねて行ったと。
 「おっ母ぁ、おっ母ぁ」
と呼ぶと、沼の水が渦巻いて、目の無い大っきな蛇が現われた。始めは恐がっていたけど、悲し気な蛇の顔を見つめているうちに急にせくりあげて、
 「おっ母ぁ」
と言うて走り寄り、蛇の首にしがみついて、ワーッと泣いたと。そしたら、その涙が蛇の目の穴に入った。たちまち、蛇は人間の姿に変ったと。両眼(りょうめ)もちゃんとある。
 「よく、こんなさびしい山の中まで来てくれたね。よく、蛇の姿をした私を抱いてくれたね。お前のおかげで山の神の怒りが解け、やっと人間の姿に戻ることが出来ました」
 そう言うて、子供をしっかり抱きしめたと。 

 挿絵:かわさき えり
 それからは、親子三人仲むつまじく暮らしたと。

 まんまん いちごのはなこ さいた。 

岩手県
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