きじにょうぼう
『雉女房』

― 岩手県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに貧乏(びんぼう)な若者(わかもの)が一人暮らしておったと。
 ある冬の日、雉(きじ)が鉄砲撃(てっぽうう)ちに追われて薪木(まきぎ)を積み重ねたかこいにささっているのを見つけて、助けてやったと。
 そしたらその日の夕方、若者が粟粥(あわがゆ)を炊(た)いているところへ、見も知らない美しい姉(あね)さまが訪ねてきて、
 「どうか、私をこの家に置いて下さい」
と頼んだと。若者はびっくりして、
 「いきなりそう言われてもなあ、見ての通り粟粥を食うような貧乏ぐらしで、おれ一人の口もしのぎかねているぐらいなのに、まして二人口などは思いもよらないことだ」
と、断ったと。

雉女房挿絵:かわさき えり
 それでも姉さまが、
 「私も機(はた)を織(お)ってかせぎますから、どうか置いて下さい」
と、何度も何度も願うので、若者は、
 「本当はおれの方こそありがたいくらいだ」
と言って、ひとつ屋根で暮らすことになった。

 二人は夫婦(ふうふ)になったと。
 女房(にょうぼう)は毎日、毎日、キッコパタン、キッコパタンと機を織ったと。
 そしてようやく一機(ひとはた)出来上がると、若者に、
 「これを町へ持って行って売って下さい。きっと百両の値で売れますから」
と言って、手渡した。若者は、
 「なんぼええ反物(たんもの)でも、一機百両なんて」
と思いながら町へ持って行くと、分限者(ぶげんしゃ)が、本当に百両でスパッと買ってくれたと。若者は狐(きつね)に化(ば)かされた気分だと。
 「おれが毎日汗水流して働いても粟粥で、女房が機を織ると百両か」

 百両もの大金は嬉(うれ)しいはずなのにちっともこころがはずまないのだと。腹だたしくなって、町であれも買いこれも買いして、大八車(だいはちぐるま)で家に帰ったと。帰るなり、女房に、
 「また反物織ってくれ」
と言ったと。
 買って来た荷(に)をほどいている若者の姿を哀(かな)しい目をして見ていた女房は、
 「はい」
と、小さく言って機場(はたば)へ行ったと。
 女房の、毎日、毎日、キッコパタン、キッコパタンと機を織る音を聞いているうちに、若者は、あの反物が何で百両になるのか不思議でならなくなった。それである日、こっそり機場を覗(のぞ)いて見たと。

 そしたらなんと、女房ではなくて一羽の雉が己(おの)が羽を抜き抜き、機を織っていたと。
 若者がびっくりしていると、機場の中からやせこけた女房が出て来て、
 「とうとう見てしまいましたね。あれほど見ないで下さいとお願いをしていましたのに。実は私はあなたに助けていただいた雉です。本当の姿を見られたからには、もうこの家に居ることは叶(かな)いません。哀しいけれどおいとまします。
 まだ半分しか仕上がっていませんが、この織物は、都(みやこ)のお天子(てんし)さまへお上げして下さい」
と言って、雉の姿になって飛んでいってしまったと。
 
 若者は、女房がいなくなってはじめて、己のおろかさに気がついたと。それで、女房の言う通り、その織物を持って、はるばる都へのぼり、時のお天子さまにおあげ申したので、のちのち出世していちご栄えたと。

  どんとはらい。

雉女房挿絵:かわさき えり

岩手県
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