みけねこのふったち
『三毛猫の経立』

― 岩手県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに爺(じい)さんと婆(ばあ)さんとが暮らしてあった。
 爺さんと婆さんは長年一匹の三毛猫(みけねこ)を飼(か)ってかわいがっていたが、今ではすっかり年を経(へ)た古猫(ふるねこ)になっていたと。
 

 ある晩のこと。
 爺さんは村の寄(よ)り合いに出掛(でか)けて、婆さんがひとり囲炉裏(いろり)のそばで野良着(のらぎ)の破(やぶ)れを繕(つくろ)っていたら、そこへ三毛猫がゆっくり、ゆっくりやってきた。


 「あれ、ミケや。おめどこへ行っていたやぁ。昨夜(ゆんべ)から姿が見えないんで、心配したったやぁ。腹ぁ空(へ)ってねぇか、今、まんまつくってやるからな。待ってろやぁ」
って、婆さん、立ち上がろうとしたら、三毛猫が
 「おれ、腹ぁ空ってねえから、まんまいらね」
って、しゃべった。婆さん、
 「そうかぁ」
って、いって、ハッと気が付いた。
 「おめ、今、なにしゃべった」
 「まんまいらね、としゃべった」
 「あやぁ、あやぁ、あやぁ、おめ、おめ、おめ、人の言葉しゃべれるのか。なしてしゃべれる」
 「おれ、昨夜(ゆんべ)、ようやく経立(ふったち)の霊力(ちから)授(さず)かった。人の言葉しゃべれるのも、そのせいだ。今まで良くしてもらった礼に歌ぁうたって踊(おど)って見せるから見てれ」
 三毛猫は歌うたいながら、前足をあげて踊ったと。


 婆さんは「経立」と聞かされて魂消(たまげ)たが、目の前にいる猫は昨日までのミケと特に変わっているとも思えない。それに、『良くしてもらったお礼に』って言われて、なんだか嬉(うれ)しくなった。手拍子(てびょうし)うって、
 「うまいもんだなやぁ」
って言った。
 
三毛猫の経立挿絵:かわさき えり
 


 そしたら、経立となった三毛猫は、婆さんの膝(ひざ)の上にあった手拭(てぬぐ)いを取って頬被(ほおかぶ)りし、目を光らせて、
 「婆ぁ、おれが歌ったのも踊(おど)ったのも、誰にもしゃべらねえんだぞ。もししゃべったら婆を喰(く)い殺(ころ)さねばなんなくなる」
っていったと。
 婆さん、急(きゅう)に恐(こわ)くなって、爺さん、早(は)よ帰って来(こ)ねかなぁって思っていたと。
 

 戸が開いて爺さん帰って来た。猫は踊りを止めて、婆さんの膝の上でまるくなった。爺さん、ミケの頭を撫(な)でて、
 「おめ、どこ行ってたやぁ」
っていった。婆さん、猫の話はしなかった。


 夜鍋仕事(よなべしごと)も終わって寝床(ねどこ)に入った。猫がいなくなったので、婆さんは、爺さんに、
 「爺さ、爺さ、さっきな、ミケが歌ぁうたって踊ったっす。人の言葉もしゃべったっす。経立になったんだと。とってもおっかなかったっす」
といって、さっきの出来事(できごと)を話したと。
 
三毛猫の経立挿絵:かわさき えり
 


 すると、天井(てんじょう)の梁(はり)の上で「ニャオォォン」と鳴いた。
 「おっかねぇー」
っていって、婆さんは布団(ふとん)を被(かぶ)った。猫がポトンと下に落ちてきて、婆さんの喉(のど)もとに噛(か)みついた。とっさのことで爺さんにはどうすることも出来なかった。婆さんを殺した三毛猫は、すぐに家をとび出て行ったと。
 

 昔から、三毛の年とった猫はおっかないもんだ。三毛猫に踊りを踊らせると化けるから、決してさせるもんでないと、昔の人は言ったもんだ。
 
 どっとはらい。

岩手県
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