たびびとうま
『旅人馬』

― 鹿児島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに金持ちの子と貧乏人の子がおって、仲良くしておったと。
 あるとき、二人はそろって旅に出たそうな。
 いくがいくがいくと、見も知らぬ遠い村で日が暮れたと。
 ある農家に泊めてもらったら、真夜中になって、すすっと障子(しょうじ)を開けて部屋に入って来る者がある。気配で目をさました貧乏人の子がうす目を開けて見ると、この家の婆さんだ。婆さんは囲炉裏(いろり)の端(はし)に座った。
 「今時分(いまじぶん)、何をするのだろう」 

 寝たふりをしてそおっと見ていると、婆さんは、まるで田んぼをすくように囲炉裏の灰を掻(か)きまわして、ぱらりぱらりと米の籾種(もみだね)を蒔(ま)いた。
 そしたらなんと、つんつん芽が出て、いい苗がはえそろったと。
 それを一度抜いてから、また、田植の時のように灰の中にさしていくと、稲の株(かぶ)はずんずん増(ふ)えた。田の草も取った。みるみる青い穂(ほ)が出て、黄色にうれると鎌で刈って実を落とした。
 それを石臼(いしうす)にかけて粉にして、それで餅(もち)を作りあげると、すっと部屋を出ていった。

 夜が明けると、婆さんは、
 「さあ、これを食うて下され」
と、お盆に昨夜の餅を盛って部屋に入って来た。 

 「あの餅を食っちゃぁだめ」
 貧乏人の子は金持ちの子にそっと耳うちした。しかし、婆さんが、
 「さあさあ、おいしいぞお」
とさいそくすると、金持ちの子は思わず手をのばしてパクッと食べた。
 「うまい」
といって、もひとつ食べた。
 二つめを食べ終わったとたん、身体をぶるぶるっとふるわせて、みるみる馬に変ってしまった。

挿絵:かわさき えり
 

 金持ちの子は、何か言おうとしても「ヒヒン、ヒヒン」と言うだけで人の言葉をしゃべることが出来ないのだと。
 婆さんは、泣いている馬にくつわをはめ、綱(つな)をつけて馬屋(うまや)へ曳(ひ)いて行って終った。
 貧乏人の子は、そのすきに怖ろしい農家を逃げ出した。いくがいくがいくと、白いヒゲをはやした爺さんに行き会った。 

 「これ、泣きながら歩いて、どうした」
と訊(き)くので、一部始終(いちぶしじゅう)をもらさず話したと。
 「よしよし、もう泣かんでもええ。わしがいいことを教えるよって。よいか、ここをずうっと行くと茄子(なす)ばかりうえた一反(いったん)畑がある。その中から、東を向いた一本の木から実を七つなっているのを見つけなさい。その実を七つとも、そのうまに食わせるといい。そうしたら、きっと、お前の友達は人間に戻ることが出来るじゃろうて」
と教えてくれた。
 貧乏人の子は飛ぶように走って茄子畑を探した。一日が過ぎ、二日も経ち、三日目にようやく茄子畑に着いたと。
 地を這(は)って泥だらけになりながら探しに探して、ようやく東を向いた一本の木から実が七つなっているのを見つけ出したと。
 

 「これだ、これだ」
と喜んで七つの茄子をもぐと、すっとんであの農家へ戻った。

挿絵:かわさき えり
 

 戻ってみれば、馬になった友達は毎日毎日田んぼへ曳きだされて働かされておったと。
 夜になるのを待って、こっそり馬屋へしのびこみ、むりむり茄子を食べさせた。
 馬が涙を流しながら七つとも食べ終えるや、ブルブルッと身体をふるわせて、たちまち人間に戻ったと。
 二人は連れだって金持ちの家に逃げ帰ると、家中大喜びで迎えてくれた。
 旅に出てからのことを話すと、父親はあるだけの財産(ざいさん)を二つに分けて、貧乏な子に半分をくれたと。
 共に金持ちになった二人は、いつまでも兄弟のように仲良くしたそうな。

 そいぎいのむかしこっこ。 

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