しにがみのたましいぶくろとおうぎ
『死神の魂袋と扇』

― 鹿児島県与論島 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに病気でふせっている娘がおったと。
 娘の病気は日に日に重くなって、いよいよ今日死ぬか、明日死ぬかという日のこと、真夜中になって一人の若者がかけつけた。
 すると、黒い服を着て、でっかい鎌を持った奇妙な男が娘の家の回りをうろついておった。
 「気味悪るいやつだな」
 「あの、もし、あんたは誰な、この家に何ぞ用かいの」
 

 挿絵:かわさき えり
 「わしか、ヒ―ヒヒヒ わしは死神だ ヒ―ヒヒヒ。わしは一番鶏が歌うまでに、ここの娘の魂を取らねばならんので、うかがっておるんじゃ ヒ―ヒヒヒ。じゃが、人の出入りが多くてわしが入り込むすきが無い。すまんがお前、わしの手伝いをしてくれんか」
 若者は死神と聞いてびっくりした。が、とっさに思案が浮かんだ。 

 「あ、ああ、い、いいよ、な、何をしたらいい」
 「ヒ―ヒヒヒ しょ(そ)うか、手伝ってくれるか。そんならお前は、外で見張りをしておくれ、人が来たら知らせておくれ」
 死神はこういうと、すうっと家の中に入った。
 若者は、そおっと隙間から死神のすることをのぞいたと。
 死神は娘の枕元に座ると、懐(ふところ)から皮袋と扇を取り出し、皮袋の口を開いて、まず 娘の片方の耳元で扇をゆっくりひとあおぎ、もう一方の耳元でまたひとあおぎ、次に口元でひとあおぎした。
 娘があくびをひとつしたとき、皮袋の口をキュッと閉めた。
 娘はコロッと死んだと。 

 「やれ、終った」
 死神はニタッと笑って、外へ出て来た。
 「ご苦労じゃった。手伝うてくれた礼に、お前の魂をもらいに来るときにゃ、ゆっくりゆっくり来てやるからの ヒ―ヒヒヒ」
といって、墓場の方へ歩いて行ったと。
 その歩き方が、右にトボラ、左にトボラといった調子で、心もとないのだと。
 「し、死神どん、どうしたや」
 「なんだか、わし、さっきの人の出入りで気をつかい過ぎて、くたびれたようじゃ。この魂の入っとる袋が重うて、重うて」
 「その袋、おらがかついでやる。ほれ、こっちへよこせ」
 「そうか、悪いな」
 死神は皮袋と扇を若者に渡したと。 

 若者は、皮袋と扇を持って死神の後ろを歩き、墓場の入り口に差しかかった時、今だ、とばかりに、扇で脇腹を「パサパサ」叩いて、「コケコッコ―」と鶏の泣き真似をした。
 安心しきっていた死神のあわてたこと、
 「しもうた」
と、一声残して、フッと姿がかき消えたと。
 若者が娘の家にとって返すと、家では皆、オイ、オイ泣いている。
 「泣かねえでええ、おらがきっと生きかえらせる」
 こう言うて、娘の枕元にいざりよると、皮袋の口を開けて、まず片方の耳元で扇をゆっくりとあおぎ、もう一方の耳元でひとあおぎ、次に口元でもひとあおぎして魂を娘にあおぎ入れたと。 

 挿絵:かわさき えり
 
 娘はあくびひとつして生き返ったと。
 若者は娘の婿殿となって、二人仲よう暮らしたと。

 そいぎぃのむかしこっこ。 

鹿児島県
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