ぼんぼんざめ
『ぼんぼんザメ』

― 神奈川県 ―
再話 萩坂 昇
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかし、相模湾(さがみわん)の三ツ石 の沖(おき)にサメの夫婦が住んでおったと。
 夫婦は、ここへ漁師(りょうし)の舟が来ると追い返しては、子ザメを守っておったと。

 「三ツ石へ行くでねぇ。主(ぬし)のサメにおそわれるぞ」
と、漁師たちは、この沖を地獄(じごく)のように恐(おそ)れて近寄(ちかよ)らなかったと。
 
※相模湾の三ツ石・・・現在の神奈川県南西部にある真鶴半島


 そんなあるとき、江戸の寺へ納(おさ)める大きな釣鐘(つりがね)を積(つ)んだ舟が三ツ石にさしかかった。
 ドーン、ドーンと、舟底(ふなぞこ)に何かがぶつかってきた。
 驚(おどろ)いた舟頭(せんどう)が海をのぞくと、大ザメがぶつかってきて、その勢(いきお)いは、今にも舟をひっくり返しそうだったと。
 
ぼんぼんザメ挿絵:かわさき えり
 


 「荷を軽くせにゃ、沈(しず)められまっせ」
 舟乗(ふなの)りは、叫(さけ)んだ。舟頭は鐘(かね)を結んでいた綱(つな)を切った。
 鐘は襲(おそ)ってきたサメにかぶさり、のみこむようにして海の底へ沈んでいったと。

 舟は、動き出したが、それもつかの間、また、ドーン、ドーンとぶつかってくる。
 それはな、夫(おっと)を奪(うば)われた妻(つま)のサメが襲ってきたのだ。その勢いは前よりもすごかったと。
 舟頭は、また、悔(くや)しそうに綱を切って鐘を海へおとした。
 鐘は、妻のサメものみこんで暗い海の底に沈んでいったと。


 舟宿についた舟頭は、このことを話した。
 「なにっ?三ツ石の主(ぬし)のサメをやっつけたと?」
 話は漁師町にパーッとひろまった。
 「主がいなけりゃ安心だ。あそこにゃ、さかながいっぱいいるでな」

 漁師は、舟をこぎ出して三ツ石へいった。
 すると海の底からボーン、ボーンと寺の鐘をつくような音が響(ひび)いてくる。漁師は不気味(ぶきみ)に思って逃(に)げ帰ってきたと。


 その響きはな、鐘に封(ふう)じ込まれた父、母を助け出そうと、子ザメたちが、遠くから勢いをつけてきてぶち当たっているのだと。

 そのときから、どれだけたったろうか。いまも三ツ石の海の底からボーン、ボーンという音が聞こえてくるのだと。
 そしてな、ここにいるサメを、ぼんぼんザメというようになったんだと。 
 
 こんでちょっきり ひとむかし。

 
ぼんぼんザメ挿絵:かわさき えり
 

神奈川県
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