いかずのせっちん
『行かずの雪隠』

― 宮城県 ―
語り 井上 瑤
再話 佐々木 徳夫
提供 フジパン株式会社

 昔ね、
 あるお寺の雪隠(せっちん)に狸(たぬき)が棲(す)みついて、雪隠に入るたびにいたずらすんで、和尚(おしょう)さんは「行かずの雪隠」と名づけて、締(し)め切ってたど。

 ある日のこと、和尚さんが、
 「小僧(こぞう)や、御法事(ごほうじ)さ行って来るがら、行かずの雪隠さ近寄(ちかよ)んでねえぞ」
 て言って出かけたど。
 近寄るな、という所には行きたいもんで、小僧は戸をこじあけて入ったど。
 

 挿絵:かわさき えり
 別に変わったこともねえ。なあんだ、普通の雪隠でねえが、と思って用を足してたら、下から白い手がヌーッと出て来て、
 尻をペタペタ叩(たた)いたり、撫(な)でたりされたんで、「キャーッ」って飛び上がったら、入り口に男と女の生首(なまくび)がブランと下がって、
 ニッタニッタ笑ってんで、腰(こし)抜かしてしまったど。
 

 小僧はやっと這(は)い出して、蒲団(ふとん)をかぶってブルブル震(ふる)えながら寝(ね)てたど。
 間もなく表でカタッ、カタッと下駄(げた)の音がして、スーッと戸が開いたんで、あっ、和尚さんが帰って(けぇって)来た、と思ってホッとしたど。
 「小僧、今帰った(けぇった)ぞ。お前(おめえ)、行かずの雪隠さ行ったべ」
 「はい」
 「下から白い手がヌーッと出て来て、尻をペタペタ叩いたり、撫でたりしたべ」
 「はい」
 「入り口に男と女の生首がブランと下がって、ニッタニッタ笑ったべ」
 「はい」
 「こんな顔でながったかあ」
 

 て言いながら、蒲団をめくったと思ったら、またヌーッと生首が近寄って来て、ニッタニッタ笑ったど。小僧は、
 「キャーッ」
 て、蒲団をかぶってブルブル震えてたど。  ほうしたら、また表でカタッ、カタッと下駄の音がして、スーッと戸が開いたど。
 小僧は、また化け物が近寄って来るな、と思って、ぎっつり蒲団をつかんでいたら、
 「小僧や、今帰ったぞ。何だどこにいるんだ」
 和尚さんは、小僧が蒲団をかぶって寝てんだと思って、さっと蒲団を剥(は)いだら、
 「キャーッ」
 て、小僧が気絶してしまったど。
 

 和尚さんは、
 「小僧、あれほど言ったのに行かずの雪隠さ行ったな。俺だ、俺だ。これからは二度と近寄るな」
 て言ったどさ。

 こんで、えんつこもんつこ、さけた。 

 挿絵:かわさき えり

宮城県
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