― 宮城県 ―
語り 井上 瑤
再話 佐々木 徳夫
整理・加筆 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社
昔、あるところに良太(りょうた)というおもしろい子供がおったと。
ある日えんがわで遊んでいた良太に、おとっつぁんが、
「これ、良太。おてんとう様と江戸(えど)とどっちが近いと思う」
と聞いたそうな。そしたら良太は首を曲げて思案(しあん)してから、
「おてんとう様の方がよっぽど近い。だっておてんとう様はここから見えるけど、江戸はさっぱり見えないもの」
挿絵:かわさき えり
と言うた。おとっつぁんはすっかり感心(かんしん)してしまったと。
それから何日かして、江戸からお客(きゃく)さんが来たそうな。おとっつぁんはお客さんにさっそく、良太の利口(りこう)なところを見せようと思って、
「良太や、おてんとう様と江戸とどっちが近いと思う」
とまた聞いたんだと。そしたら良太は、お客さんとおとっつぁんの顔を見て、首を曲げて思案してから、
「江戸の方がずっと近いよ」
と答えたと。
すっかりあてがはずれてしまったおとっつぁんは、妙な顔をして、
「どうして江戸の方が近いって言うのや。おめえ、この間はおてんとう様の方が近いって言ったでねぇか」
と言ったそうな。そしたら良太、
「そんな事言ったって、おとっつぁん、江戸からはこうしてお客さんが見えるけど、おてんとう様からはまだ一ぺんも見えた事がないもの」
と、こう言うたと。
挿絵:かわさき えり
こんでおしめい、ちゃんちゃん。