てんぐさまのはなはなぜあかい
『天狗さまの鼻はなぜ赤い』

― 宮崎県 ―
語り 井上 瑤
再話 比江島 重孝
整理 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、むかし。
 あるところに大きな松の木があって、その木に天狗(てんぐ)さまがいたと。
 ある日のこと、村のひとりの子供が松の木の下で、
 「天狗さまござるか。よう見ゆるぞ。大阪の町がよう見ゆる。道頓堀(どうとんぼり)も大阪城も見ゆるぞ」
と、いいながら、竹の筒(つつ)を一心(いっしん)に覗(のぞ)いていたと。
 すると、松の木の上から声がして、
 「なんじゃ。大阪が見ゆると。そりゃ、まこっちかい」
と、天狗さまが顔を出したと。 

 挿絵:かわさき えり
 子供はますます声をあげて、
 「ああ、芝居小屋が見ゆるぞ」
というたら、天狗さまはいよいよ、大阪が見たくてならなくなった。
 「よい、そんのぞき眼鏡(めがね)をちょい貸さんか」
 「こんげ良う見ゆるのぞき眼鏡を、人に貸さるるかい」
 「そんげいわんと貸してくり」
 「天狗さま、そんげ見たけりゃ、天狗の宝物をかしゃいよ」 

 「天狗の宝物いうたら、かくれ蓑(みの)をか」
 「いや、かくれ蓑じゃだめじゃ。鼻高(はなたか)ァなれを貸しゃいよ」
 「よし、そいじゃ鼻高を貸すかい。…そん前(まえ)に、お前の一番こわいもんはなんじゃ」
 「ああ、おれの恐(こわ)いもんは、饅頭(まんじゅう)じゃ。天狗さまは、なんが恐いか」
 「ああ、おれは野茨(のいばら)が一番こわい」
 それを聞いて、子供は竹の筒ののぞき眼鏡を天狗さまに貸してやったと。そしたら天狗さまは、子供に鼻高の太鼓(たいこ)を貸してくれたと。 

 天狗さまは、竹の筒ののぞき眼鏡を受けとると、早(は)よ早よ松の木の上に登って、大阪の町を見ようとした。
 が、いくらのぞいても大阪の町は見えん。見えるものといったら、山と木と空ばかりだ。
 さあ、天狗さまは怒った。
 「あん子供のやろう。よくも、おれをだまくらかしたな。許しゃせんぞ」
というて、店屋(みせや)に行って、饅頭をカゴ一杯買うて来ると、それを持って子供の家に行った。
 子供は、天狗さまが怒ってやって来ることを知っていたから、山へ行って、たくさんの野茨を取ってきて、それを家のまわりに張り巡(めぐ)らせて置いたと。 

 そうとは知らない天狗さま、饅頭をかかえて、やって来て魂消(たまげ)た。
 「やあ、こりゃなんと。おれの一番恐い野茨ばかりじゃ」
 天狗さま、家の外から子供をにらみつけて、
 「こら子供。早よ、鼻高を返せ。返せ」
といいながら、饅頭をポンポン投げたと。すると子供は、ニコニコ笑うて、
 「やぁ、こりゃこわい。こりゃ、うまい。こりゃ、こわい。こりゃ、うまい」
といいながら、ぱくぱく食うたと。
 天狗さま、いよいよ怒って、
 「あきれたやつじゃ。あきれたやつじゃ。早よ、鼻高返せ、鼻高返せ」
と、叫んだと。
 そこで子供は、鼻高の太鼓を出すと、ポンポン、ポンと叩きながら、
 「天狗さまの鼻高ァなれ、
 天狗さまの鼻高ァなれ」
と、いうた。
 すると、天狗さまの鼻が、ズイズイズイ、と、のびて、のびて、のびて行ったと。 

 挿絵:かわさき えり
 ちょうど、天狗さまの鼻がのびて行ったところで、山火事が起きていた。鼻の先を火傷(やけど)したと。
 天狗さまの鼻は、この時から赤くなったと。

 こりぎりの話。 

宮崎県
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