りゅうぐうのおれい
『竜宮のお礼』

― 宮崎県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 昔、あるところに親子三人がひっそり暮(く)らしておったと。おとっつぁんは病気で長わずらいの末とうとう死んでしまったと。おっかさんと息子(むすこ)が後にのこり、花をつんで売ったりたきぎを切って売ってはその日その日をおくるようになったと。
 ある日、息子が花をつんで街(まち)へ売りに行ったが一つも売れなかった。
 「家に持って帰ってもただ枯(か)れるだけだ。それより竜宮様(りゅうぐうさま)にさしあげよう」
と言うて、花を橋の上から川へ投(な)げてやった。

竜宮のお礼挿絵:かわさき えり
 花は流れ流れて、やがて沈(しず)んで見えなくなった。それを見とどけて、さて帰ろうと息子が歩きはじめた時、
 「もし」
と後ろで呼(よ)びとめる者があるんだと。

 ふり返った息子は思わず目をうたがった。何と、目の前には竜宮のおとひめ様がきれいなべべ着てにこやかに立っておられたそうな。
 「あ、あ、あんたは」
 「はい、ただいまはたくさんのお花を下さってどうもありがとう。竜宮の皆も、たいそう喜んでいます」
 「は、は、はい。いえ。あの。その」
と息子がドギマギしていると、おとひめ様は歩(あゆ)みよって手をさしのべ、息子の両方(りょうほう)の耳たぶを指でかるくもんだ。
 「さ、これが私からのお礼(れい)です。きっといい事がありますよ」
と言うて息子の向きをクルリと変えた。少したって息子が後を振り返った時にはもうおとひめ様の姿は消えておって、川のみなもにも水(すい)もんが広がっているだけだったと。夕やけ空には早(はや)鳥が寝ぐらに帰り始めておった。

 「おらも早う家にもどらにゃ」
と山道を急いだと。行くが行くが行くと、カラスが二羽飛んで来て、木にとまりカアカア鳴(な)いた。そのカラスの声が、
 「庄屋(しょうや)の娘(むすめ)が大病(たいびょう)で間もなく死にそうじゃでな」
 「館(やかた)を建(た)て増(ま)しした時、大黒柱(だいこくばしら)の下に大きな蛙(かえる)がおし込まれて動けんのがたたっとるげな」
 「ね石をどけてゆっくり掘(ほ)って蛙を北に逃(に)がしたら病気はなおるのに、人間はだーれも気がつかん」
と言うておる。
 「はて、カラスの声がわかるとは。そうか、さっきおとひめ様が、お礼じゃ言うて耳をいじっとったが、きき耳にして下さったか」

 息子は家に戻っておっかさんに話したら、
 「そりゃ早う庄屋さんに知らせにゃならん」
と言われて、あくる日、朝早うに庄屋さんの館へ行ったと。するとやっぱり庄屋さんの娘は大病で、今日明日も知れん体だったと。庄屋さんは医者(いしゃ)もきとう師もきかなくてあきらめとったところだったから、息子の話を聞いてすぐに大黒柱の下を掘ったと。手で土をかきわけたら、蛙は片目つぶして弱っておった。すくい出された蛙はしばらくじいっとしておったが、やがて北の方にビクタリビクタリ動いて行った。
 それから一時(いっとき)すると、庄屋さんの娘が目を開けて病気が治(なお)ったと。娘は庄屋さんからわけを聞くと、息子に、
 「私の命の恩人(おんじん)です。ぜひ婿殿(むこどの)になって下さい」
と願うたと。息子は庄屋さんの娘の婿殿になって、おっかさん共々いい暮らしになったそうな。

  こりぎりの話

竜宮のお礼挿絵:かわさき えり

宮崎県
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