におうか
『仁王か』

― 長野県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、ある寺に仁王門(におうもん)があって、その中に大っきな仁王様がごさらっしゃったそうな。
 仁王様は一日中、夜も昼も休むひまなく仁王門の中で立ち続けているので、退屈で退屈でしかたがなくなってしまったそうな。
 そこで、ある晩のこと、
 「朝から晩まで立ちっぱなしじゃ、おもしろくないな。なあに、夜くらいは誰れにも見られんから、ちっとは遊びに出かけてもよかろう」
といって、お寺の周囲(まわり)を夜廻りを兼ねてぶらついたと。
 「おお、こりゃ、ええ。凝り固まった身体が段々ほぐれて、新たな力がみなぎってくるのが、ようわかるわい」 

 挿絵:かわさき えり
 お寺が村はずれにあって、誰れにも見られんのをいいことに、それから毎晩出歩くようになったと。
 そのうちに、だんだん遠くの方まで遊びに行くようになって、人家のある所までやって来た。すると、真夜中だというのに一軒だけ灯(あか)りがともっている家があった。
 近づいて、そっと窓障子(まどしょうじ)の破れ穴から中をのぞいて見ると、婆さんが一人おって、糸車をまわして、糸をくっていた。 

 仁王様は、初めて見る景色が何ともいえず珍らしい。
 「ふーん、何やらブンブン廻(まわ)しとるが、ありゃ、何たらもんじゃ」
と、ふしぎそうに眺めていると、婆さんは、糸車をまわしながら、片っぽうの尻(しり)をひょいと持ちあげて、大っきな屁を、ブフワァンとこいた。
 思いがけないことで、仁王様が思わず笑うと、婆さんは誰か村の人かと思って、
 「おうおう、匂(にお)うか」
と聞いた。
 仁王様はこれを、「仁王か」と言ったのだと早合点して、さあ、魂消た。
 「やっ、わしが隠れていることを、ちゃんと知っとる。こりゃいかん」
 あわてて逃げ帰ると、もとの通りに仁王門の中に入って、知らん顔をして立ってござらっしゃったそうな。

 そればっかり。 

 挿絵:かわさき えり

 
 

長野県
に伝わる他のおはなしへ >>

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。音声が再生されない場合はこちらをご覧ください。

こんなおはなしも読んでみませんか?

雀とキツツキ(すずめときつつき)

雀とキツツキ(すずめときつつき)

むかし、雀(すずめ)とキツツキは人間だったってな。ある時、雀のおっ母さんの具合(ぐあい)が悪うてなあ、使いの者が・・・

この昔話を聴く

地蔵むがし(じぞうむがし)

地蔵むがし(じぞうむがし)

むがし、むがし。爺(じい)と婆(ばあ)どいであったど。貧乏(びんぼう)でな、正月来たども餅(もぢ)ひとづ喰(くわ)ねほどだけど。

この昔話を聴く

現在619話掲載中!