うしかたさんじゅうろうとやまんば
『牛方三十郎と山姥』

― 長野県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、糸魚川街道(いといがわかいどう)で荷物を運んでいた牛方に三十郎という者があった。
 ある日のこと、牛二頭を追って大網峠(おおあみとうげ)にさしかかると、年取った山姥(やまんば)が出て来て、
 「干し鱈(だら)を一枚くれろぉ」
というた。三十郎は、
 「これは大網の庄屋様(しょうやさま)へ届けるだでやれぬ」
と応(こた)えると、山姥が、
 「そんなら、干し鱈も牛もみな喰(く)ってしまうぞぉ」
と、恐ろしい顔をしておどすので、三十郎は荷物から干し鱈をとって投げてやった。
 山姥は、それを一口にゲロッと喰うて、
 「三十郎やぁ、もう一枚くれろう」
という。

 三十郎がまた一枚抜き取ってやると、また一口にゲロッと食べて、
 「もう一枚くれぇ」
とせがんだ。
 三十郎はいよいよ怖くなって、干し鱈を一梱(ひとこり)そっくり投げおいて、そのあいだに牛を追い立てて逃げたと。

 「もうよかろ」
と思って振り返ったら、山姥はすぐ後ろでニカァと笑った。そして、
 「三十郎やぁ、干し鱈をくれぇ」
とせがんだ。
 三十郎は、牛に背負わしてある干し鱈の荷を全部投げ出して、牛を追い立てて逃げたと。
 山姥は、その荷もゲロッと呑(の)みこんで、またすぐに追いついたと。今度は、
 「牛をくれろぉ」
という。
 三十郎は、牛一頭をそこに放(はな)って、残った一頭を追い立てて逃げたと。

牛方三十郎と山姥挿絵:かわさき えり
 「もうよかろう」
と思って振り返ったら、山姥はすぐ後ろで、ニカァと笑った。そして、
 「三十郎やぁ、その牛をくれろぉ」
とせがんだ。
 三十郎は、最後の牛をそこに放って、逃げに逃げたと。

 どんどこ逃げていたら、行く手に一軒(いっけん)の家があったので、
 「ご免よお、だれかおるかぁ」
と呼んだ。が、返事がない。これさいわいと家にあがって、二階の藁(わら)すべの中へ潜(もぐ)り込んだと。
 しばらくしたら、誰か帰って来た気配がする。
 息を殺して耳をすましていたら、
 「干し鱈を二駄(にだ)、牛二頭喰うたが三十郎を逃(のが)したのは口惜(くちお)しい」
という声がした。
 何と、山姥の家だったと。山姥が、
 「どれ、二階へ上がって寝(ね)ようか」
といいながら梯子(はしご)を上がりかけたら、ミシリ、ミシリ、音がした。
 「梯子が折れちゃ危ないから、二階はやめて石櫃(いしびつ)にしようか木の唐櫃(からびつ)にしようか。石は冷たいから木の櫃(ひつ)にしよう」
といって、木の唐櫃に潜って寝てしまったと。

 三十郎は藁すべの中で息をつめていたが、山姥の寝息を確かめてから、
 「仇討(あだう)ちをしてやる」
と、そおっと梯子を下りて、大きな石を幾(いく)つも唐櫃の蓋(ふた)の上に置いた。
 カマドで火を焚(た)いて湯を沸(わ)かした。
 それから唐櫃の蓋に穴を開けようと錐(きり)でもみはじめると、山姥が寝呆(ねぼ)けて、
 「キリキリ鳴くのはキリギリス」
というた。
 穴が開いたので、その中に煮(に)え湯を注ぎ込んだ。山姥が、
 「熱ちいやぁ、熱ちいやぁ。三十郎、三十郎、干し鱈も牛も皆返すからぁ、救(たす)けてくれぇ」
と、泣きごというたと。
 三十郎は、
 「勝手なこと言うな。聞く耳など持たねぇ」
と、どしどし湯を注ぎ込んだ。

 しばらくして蓋を取ってみると、山姥は大きな山蜘蛛(やまぐも)に変化(へんげ)して死んでおったと。

 それっきり。

牛方三十郎と山姥挿絵:かわさき えり

長野県
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