おやゆびたろう
『拇指太郎』

― 長崎県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに爺(じ)さと婆(ば)さがあった。子供がなかったと。毎日、神様に、
 「おらたち、この先もふたりっきりで、淋(さび)しくってなんねぇ。豆粒(まめつぶ)ほどの子供でよいから、どうか授(さず)けて下さい」
とお願いしていたそうな。
 そしたら、あるとき、婆さの拇指(おやゆび)の腹がプクーとふくらんできた。
 「こりゃ何じゃろなぁ」
 「できもんみたいだなぁ、婆さ」
 一日一日(いちにちいちにち)拇指の腹がふくらんで、ふくらんで、爺さと婆さが見つめる間にもふくらんで、ついにプチンとハジケ裂(さ)けた。中から豆粒ほどの男の子が産まれたと。
 

 「あややぁ」
 「あややぁ」
 爺さと婆さは驚(おどろ)くやら、喜ぶやら。
 拇指から産まれたから“拇指太郎”と名前をつけて、可愛(かわい)がったと。

挿絵:かわさき えり
 

 ある日のこと、
 爺さが木を伐(き)りに馬の支度(したく)をしていると、拇指太郎が、
 「今日は、おらが馬を曳(ひ)いて行く」
という。
 「お前みたいなこまかい(小さい)者が、どうやって馬を曳けるや」
 「馬の耳の中へ、おらを入れてくれ」
というので、爺さ、拇指太郎を馬の耳の中へ入れてやった。
 馬は初めはとまどっていたが、じきに指示どおりに進んで行くのだと。
 爺さは、感心しながら、うしろからのんびりついて行った。いくがいくがいくと、旅の者がこれを見ていて爺さに声をかけてきた。
 「その子をわしに百両で売ってくれんか」
 「何言うか。この子はわしらの宝だ。銭金(ぜにかね)には替(か)えられん」
 爺さが断(ことわ)ると、拇指太郎が爺さの耳元へささやいた。
 「売って下さい。おらに考えがある」
 爺さは、仕方なく売ってやったと。 

 旅の者は
 「こいつはいいものが手に入った。見世物(みせもの)にすれば大もうけが出来るぞ。百両なんて安いもんだ」
というて、浮き浮き歩いて行ったが、やがて疲れて木陰でひとやすみした。
 拇指太郎は、この機をのがさず逃げ出した。
 逃げて逃げて、その晩(ばん)牛小屋にたどりついたと。ワラ束(たば)にデンデン虫の抜け殻(ぬけがら)があったので、その中に眠った。
 そしたら、朝まに人が来て、デンデン虫の殻がついたまま、ワラを牛に喰(く)わせてしまった。
 眠っていた拇指太郎は、目を覚ましたら牛の腹の中にいた。あっちの筋を引っ張り、こっちを蹴(け)りしたものだから、牛も驚(おどろ)いて大あばれした。
 家の者が始末におえなくて、牛を殺し、その腹ワタをゴミ溜(た)めに捨てた。 

 その晩、狼(おおかみ)がやってきて、その腹ワタを食べた。今度は狼の腹の中に入ったと。
 拇指太郎は狼の腹の中から、
 「ここから三里ばかり行くと、爺さの家がある。爺さがお前にご馳走(ごちそう)を食わせるとて待っているから、早よう行けや」
と、けしかけた。
 狼が、のこのこ爺さの家へ行くと、爺さはびっくりして、狼をぶちのめしてしまった。
 狼の口から拇指太郎が飛び出したものだから、爺さと婆さは、大喜び。
 旅の者から受け取った百両で、三人は一生安楽に暮らしたと。

 こるばっかるばんねんどん。 

 挿絵:かわさき えり
 

長崎県
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