ゆきんこ
『雪ん子』

― 奈良県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 昔、あるところに子供のいない夫婦がおったそうな。
 二人は毎日毎日お宮(みや)さんへお参りしては、
 「どうか、子供をお授けくだはりますように」
と願かけをしておったと。
 ある雪の降る日にお宮さんにお参りしたら、拝殿(はいでん)の横から、「オギャ-、オギャ-」と、赤ん坊の泣き声がした。まわりこんで見るとかわいい女の赤ん坊が置いてあったと。
 「これは、神様が願いをかなえてくだはったにちがいない」
 「そやなあ、ありがたいこっちゃ」
 二人は家に抱いて帰り、名前を「雪(ゆき)」とつけたと。 

 雪ん子挿絵:かわさき えり
 大事に大事にしたので、雪はすくすく育って、きれいなきれいな女の子になったと。
 だけど、普通の子供とはちいっと変ったところがあった。
 雪は、寒い日が来て雪が降ると元気にはしゃぎまわるのに、夏が来て暑い日が続くと家の中に閉じこもって元気がなくなるのだと。
 二親(ふたおや)は、
 「神さまから授かった子じゃもん、そりゃあ並(なみ)の子らとは、ちいっとはちがっているやろ」
と気にもしなかったと。 

 そして、雪は十才になったと。
 村祭りの晩のこと、
 「雪ちゃん、お宮さんのお祭りに行こう」
 言うて、友達が誘いに来たので、雪はきれいなべべを着せてもらって、みんなと行ったと。
 お宮の境内(けいだい)では、あかあかと松明(たいまつ)がたいてあって、その松明の上を飛び越えたら達者になるというので、みんな走っていっては松明の上を飛び越えておったと。
 「早よう、雪ちゃんも飛びやあ。飛んだら達者になるのやでえ」
 みんなは口(くち)々にそう言うて、雪をけしかけた。
 「いらん、わたしは飛ばひんね」 雪は松明から離れたところに立って、火をさけるようにしとるんだと。 

 雪ん子挿絵:かわさき えり
  「やあ、雪ちゃんのいくじなし。こんなぐらい、よう飛ばんのかあ」と、やいやい言うてはやしたてた。
 雪は、それがつらくて飛んでみる気になったと。
 走って行って、松明の上をパッと飛んだ。そのとたん、パアッと湯煙があがって、雪の身体が消えてしもうた。 

 「あれ、雪ちゃんがおらん。消えてしもた」
 「ほんに、どこ行ったんやろ」
 「雪ちゃん、雪ちゃーん」
 みんなは大声で呼びながら、あちこち探しまわったが、とうとうみつけられんかったと。
 「雪ちゃんは、雪の中から授かった子やから、火にとけてしもてんなあ」
 そう言うて、みんなかなしんだと。

 おしまい。 

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