きんのなす
『黄金の茄子』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、佐渡の小木(おぎ)という村に漁師のお爺さんとお婆さんが住んでおった。
 ある日のこと、お爺さんが浜辺で若芽(わかめ)を採っていると、小さな舟が一艘(いっそう)流れ着いた。
 中をのぞくと、美しい女(おな)ごが息も絶え絶えになって横たわっている。
 「こりゃぁお気の毒にのう、一体何日波にもまれて来たのやら」
 お爺さんは、その女ごを背負って我家へ連れ帰り、お婆さんと、やれ酒を飲ませ、やれカユを食わせ、と、かいがいしく介抱してやった。
 やっと元気を取りもどした女ごは、爺さんと婆さんに
 「私は島流し者で、もうどこへもいくところはありません、どうかここへ置いて下さい」
と頼んだと。 

 挿絵:かわさき えり
 二人は子供も無かったので、喜んで置いてあげることにした。
 女ごは、島流しにあう前から、お腹(なか)に児(こ)を宿していたとみえ、月満(つきみ)ちて玉のような男の児を産んだ。
 お爺さんとお婆さんは、孫まで生まれたので大層喜こび、大事にその児を育てた。 

 男の児がだんだん大きくなって七つ八つになった頃、家の軒先(のきさき)につばめが巣をつくった。日が経って、そのつばめに卵がかえり、親鳥がかわるがわるもどって来ては子つばめの口(くち)の中に餌(えさ)をやっている。
 男の児はこれを見ると母親にたずねた。
 「つばめでさえもふた親があるのに、どうしておらにはおっ母さんしかおらんの」
 「父(とと)さんはあるのんだ。お前はの、大阪のお城のお殿さんの子だ。お殿さんには大勢のお后(きさき)がおっての、私は一番若くて美しかったからみんなより可愛がられた。それをほかのお后がねたんでわたしの部屋に萱(かや)の実を敷いた。殿さんが私のところへ来られて萱の実をつぶし、ピチッと鳴ったのを、みんなは私が『おならをした。無礼者だ』とさわぎ、その科(とが)で私を島流しにしたのです。何日も流れ流れて死にそうになったときお爺さんとお婆さんに助けられたのです」 

 「屁をひっただけで島流しとはあんまりだ。殿さんに会って、おっ母さんを元の通りにしてあげるだ。大阪へ行かせてくれろ」
 男の児は、たった一人で大阪へ旅立ったと。

 大阪のお城に着いた男の児は、城のまわりをまわりながら、大声で、
 「黄金(こがね)のなる茄子(なす)の種(たね)はいらんかぁ、金のなる茄子の種はいらんかぁ」
と呼び歩いた。
 殿さんはその声を聞きつけ、城の中へ呼び入れた。
 「お前のその種は、本当に黄金(きん)の茄子がなるか」
 「はい、なりますだ。けれど、生まれてから一度も屁をひらん女が蒔(ま)かんと、芽は出て来ん。また、また、蒔いても実がなるまで、屁をひってはならん」 

 「ばかをいうな。この世に一度も屁をこかん者があるか」
 「けど、おらの母親は、こきもせんおならを、こいたちゅうて島流しにされた。どうしてや」
 殿のさんは、目をまんまるにして男の子を見、
 「うん、これがわが子であったか」
と気づいて大喜び。
 「わしにはまだ世継ぎがない。我が子と呼ぶのは、そちひとりじゃ。ぜひこの城に来てくれ」
といって、すぐに母子を引き取って、男の児は殿さんのあとつぎになったそうな。

 いきがさ―けた どっぴん。 

 挿絵:かわさき えり


 

新潟県
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