さばうりとやまんば
『鯖売りと山ん婆』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 昔、あったてんがの。
 あるところに鯖売(さばう)りがいた。
 あるとき、鯖売りは魚籠(さかなかご)に鯖(さば)を入れて、山里(やまざと)へ売りに行ったと。
 「鯖、えー鯖」
と売り歩いていたら、山から山(やま)ン婆(ば)が出て来て、
 「鯖売り、鯖売り、おれが貰(もろ)うてやる」
 「へい、なんぼほど」
 「みな、貰うた」
というた。
 鯖売りが魚籠を地面におろしたら、山ン婆は、鯖をまるごと口に放り込み、アクアク、アクアクいうて食うた。あれよ、あれよという間に、魚籠にあった鯖をみな食うてしまった。 

 挿絵:かわさき えり
 「おばば、銭(ぜに)は」
 「銭なんかあるもんか。お前(め)も食うてしまうぞ」
 鯖売りは、たまげて走って逃げたと。逃げて、逃げて、森の中の一軒家に飛び込んだと。
 「誰か、誰かぁ居(お)るかぁ」
と荒い息して呼んだが返事がない。
 鯖売りは、誰の家(いえ)か知らんが、隠れさせてもらお、と、その家の天井裏へひそんだと。 

 そしたら何と、山ン婆がやってきて、囲炉裏端(ばた)にコロンと横になった。鯖食うて、腹ふくれて、イビキかいている。山ン婆の家だったと。
 天井裏では鯖売りが、さあて、困った、と息をつめていたら、やがて、山ン婆が目をさました。して、
 「はて、まあ、のどがかわいた。甘酒(あまざけ)わかそうか、辛酒(からざけ)わかそうか」
というから、天井裏にひそんでいた鯖売りは、
 「甘酒、わかせ」
と、いうてやった。そしたら、山ン婆、
 「ああ、囲炉裏の火の神様が甘酒わかせ、というた。甘酒ひと鍋わかそうか」
というて、囲炉裏の自在鍵(じざいかぎ)に鍋を掛けて、甘酒をわかしはじめた。腹あぶりしたり、背中あぶりしているうち、コクラ、コクラと居眠りしたと。
 甘酒がわいたら、鯖売りは天井裏から葦(よし)ン棒(ぼう)でツウツウとみな吸い上げてしもうた。 

 山ン婆が目をさまして、さて、甘酒わいたかな、と鍋を見たら、なんにも無い。
 「そうか、火の神様が飲んでしまわれたか。そいじゃ、こんだぁ餅焼いて食おか。干(ほ)し餅焼こか、いい餅焼こか」
というたので、天井裏の鯖売りは、
 「いい餅、焼け」
というた。
挿絵:かわさき えり

 「火の神様がいい餅焼けというた。いい餅焼こう」
というて、餅わたしにいい餅並べて焼きはじめた。腹あぶりしたり、背中あぶりしているうち、コクラ、コクラと居眠りしたと。
 餅が焼けて、プーとふくらんだので、天井裏の鯖売りは、葦ン棒をとんがらかして、焼けた餅を突き刺しては引きあげ、みな食うてしもうた。
 山ン婆が目をさまして、さて、餅が焼けたかな、と餅わたしを見たら、なんにも無い。
 「そうか、火の神様が食うてしまわれたか。そいじゃ、もう寝よう。木(き)の櫃(からと)に寝よか、石の櫃に寝よか」
というたので、鯖売りは、
 「木の櫃に寝え」
というた。
 「火の神様が木の櫃に寝えというた。木の櫃で寝よう」
というて、木の櫃に寝たと。 

 すぐにイビキが聞こえてきたので、鯖売りは天井裏からおりた。
 鍋にお湯をグツラグツラわかし、きりで木の櫃に穴を開けたら、キリキリ音がした。
 山ン婆が目をさまして、
 「キリキリ虫が鳴いている。そうか明日(あした)は天気がいいか」
というた。
 鯖売りは、その穴から熱(あつ)い湯をそそぎこんだ。山ン婆は、
 「あつつ、あつつ」
 いいながら、大やけどをして死んでしもうたと。

 いきがポーンとさけた。 


 

新潟県
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