あとかくしのゆき
『あとかくしの雪』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 とんと昔があったげど。
 ある冬の夕方、雪のふりつもった里の村に旅の坊さまがやってきた。
 腹(はら)をすかせ、とぼらとぼら歩きながら、一軒(いっけん)一軒訪(たず)ねては、
 「どうか一晩(ひとばん)だけ泊めて下され」
と、たのんで廻(まわ)ったと。が、どこの家でもみすぼらしい旅の坊さまの姿を見ると、
 「よそに行ってくろ」
というて、泊めてくれなんだ。
 しかたなしに、寒い雪の道をふるえながら歩いていると、村はずれに小(ち)っこい家があった。
 坊さまは、またことわられるかもしれんと思いながら、ホトホトと板戸(いたど)をたたくと、中から婆(ばあ)さまが出てきた。 

 「宿がなくて困っています。どうか一晩だけ泊めて下され。」
 「とめてあげたいども、おらとこは貧乏(びんぼう)でお坊さまに食うてもらうようなもんもないすけ、どうかよその家に行ってくれんかのう。」
 「村中の家にたのんでみたが、どこの家でもことわられてしもうた。何もいらんから泊めて下されや。」
 「そうかそうか、それは難儀(なんぎ)じゃろう。こんな家でよかったら泊まってくろ」
 婆さまはそう言うと坊さまを家に入れ囲炉裏(いろり)に火を焚(た)いて部屋をあっためたんだと。

あとかくしの雪挿絵:かわさき えり

 旅をしてきた坊さまだから、さぞかし腹をすかせているだろうと思ったが、食べさせられるような物は何にも無い。
 婆さまは、夜おそうなってから家をぬけ出した。雪の上をあっちへよろよろ、こっちへよろよろしながら、ようやく金持ちの家の大根置き場へ行くと、大根を一本、こそっとぬすんできた。
 雪の上には、婆さまの足あとがくっきりとついていたそうな。
 家に戻った婆さまは、その大根を囲炉裏(いろり)の灰の中にうずめて、しばらくしてとり出すと、
 「さあさ、大根焼きでも食うてくろ。からだがあったまりますで」
と、坊さまに差し出した。
 「おー、これは寒い晩には何よりのごちそうじゃ」
 坊さまはうまそうに大根焼きを食うたと。 

 あとかくしの雪挿絵:かわさき えり
 その夜のこと、さらさらさらさら雪が降(ふ)りつもって、婆さまの足あとをみんな消してしもうた。婆さまの気持ちをうれしく思うた坊さまが、雪を降らせたんだと。
 この坊さまは弘法大師(こうぼうだいし)さんだったと。 

 この日が旧暦(きゅうれき)の十一月二十三日だったもので、それで今でも旧暦十一月二十三日を大師講(たいしこう)というて必ず大根焼きを食うようになり、この日には必ずちらっとでも雪がふるので、その雪を「あとかくしの雪」というようになったんだと。

 いちがポーンとさけ申(もう)した。 

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