ほういんさまとにょうぼう
『法印様と女房』

― 新潟県岩船郡 ―
再話 六渡 邦昭
語り 平辻 朝子
提供 フジパン株式会社

 とんと昔があったと。
 昔、丸坊主頭(まるぼうずあたま)の法印様(ほういんさま)と女房(にょうぼう)が連れだって旅をしたと。
 長い道中(どうちゅう)で、女房が小便(しょうべん)が出たくてたまらなくなった。人のいない道端(みちばた)でかがもうとしたら、法印様が、
 「これこれ、そんげのどこで小便をしてはならん。そこに荒神様(こうじんさま)が祀(まつ)ってある。大事(だいじ)なところだ」
と言うた。女房は我慢(がまん)して歩いて行ったと。

 行くが行くが行くと道のはずれに、大っきな木があった。
 道をはずれて、その木の陰(かげ)に廻(まわ)ろうとしたら、法印様から、
 「これこれ、そんげのとこで小便してはならん。そこに庚申様(こうしんさま)が祀ってある。大事なところだ」
と言われた。女房は、また我慢して行ったと。
 
法印様と女房挿絵:かわさき えり

 道はやがて川に沿(そ)った土手(どて)になった。そしたら川風が冷(ひや)っこくて、いよいよ我慢出来なくなった。橋(はし)がかかっていたので急(いそ)いで橋の下へおりたと。
 着物の裾(すそ)をまくろうとしたら、法印様が、
 「これこれ、そんげのところで小便してはならん。そこに水神様(すいじんさま)が祀ってある。大事なところだ」
と言うた。女房は泣きたくなった。それでも我慢して土手を登ろうとしたら、はいていた草履(ぞうり)の紐(ひも)が解(と)けたと。かがんで草履を取ろうとしたら漏(も)れかかった。それで法印様に、

 「紐を結(むす)んで下さいな」
と、苦(くる)しそうに頼(たの)んだと。
 法印様が女房の足元にかがんで紐を結んでいたら、女房の我慢の緒(お)も切れた。つい、法印様の丸坊主の頭へ、ジャジャーとかけたと。
 「わっ、わっ、わっ、ペッ、ペッ、わあぁこれ、何をするか」
 「す、すみませぇん。で、でも、止まッりッませぇん」
 女房は、かがんだ法印様の肩(かた)を押(お)さえこみ、
 「ご、ご免なさい。でも、ああ、きもちいい」
と言うた。

 すっきりした女房に、法印様、
 「亭主(ていしゅ)の頭に小便をひっかけるとは、何ごとだ」
と怒(おこ)ったら、女房はすまして、
 「おらは、ずうっと小便したくてたまらんかったのに、しようとしたらお前さんが、あっちでもこっちでも、どこでも神がおられる言うて、させてくれなんだ。かがんだお前さんの頭を見たらカミが無いもんで、ついしてしもた」
と、こう言うたと。

  いきがさけた どっぴん。

法印様と女房挿絵:かわさき えり

新潟県
に伝わる他のおはなしへ >>

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。音声が再生されない場合はこちらをご覧ください。

こんなおはなしも読んでみませんか?

和尚と小坊主、餅と和歌詠み(おしょうとこぼうず もちとうたよみ)

和尚と小坊主、餅と和歌詠み(おしょうとこぼうず もちとうたよみ)

むかし、むかし、あるお寺に和尚さまと施物を司る納所坊主さんと小坊主との三人がいたと。ここの和尚さまは餅が大好きで他所から貰っていつも己ひとりで食べるのだと。

この昔話を聴く

猿とカニ(さるとかに)

猿とカニ(さるとかに)

むかし、あるところにサルとカニがおったって。あるとき、カニが河原(かわら)を散歩していたら握(にぎ)り飯がひとつ落ちていた。拾うて運んでいたら、サル…

この昔話を聴く

現在650話掲載中!