きっちょむさんとぜにぐそうま
『吉四六さんと銭糞馬』

― 大分県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 昔、豊後(ぶんご)の国、今の大分県臼杵市(うすきし)野津町(のつまち)大字(おおあざ)野津市(のついち)というところに、吉四六(きっちょむ)さんというトンチの上手な面白(おもしろ)い男がおったと。
 あるとき、吉四六さんが馬を洗おうと小川へ行ったら、隣(となり)のかみさんが洗濯(せんたく)をしていた。
 「ちいと、からこうちゃろ」
 いたずらのいい思案(しあん)が浮かんだ吉四六さん、財布から一文銭(いちもんせん)をひとつかみ取り出すと何くわぬ顔で馬の尻の穴をさすった。
 馬は糞(くそ)をボタボタッと落とした。
 それをザルで受けて、川でゆすり洗いをした。


 隣のかみさんが洗濯の手を休め、
 「妙(みょう)なことをする吉四六さんだ」
と見ていたら、何と、馬の糞が洗い流されたあとのザルの中に、銭(ぜに)がジャラジャラ現れたので、びっくり仰天(ぎょうてん)
 「き、吉四六さん、そりゃ何な?」
 「今、おまんが見たとおりじゃ」
 「えらいことじゃ、えらいことじゃ」
 隣のかみさん、洗濯物ほっぽらかして駆けていき、村中に触れまわった。 吉四六さんと銭糞馬挿絵:かわさき えり

 次の日、小川には、村人があっちからも、こっちからも見物にやって来た。
 吉四六さん、例の手をつかって、ザルの中で銭をジャラジャラやってみせた。
 みんなが感心していると、そこへ庄屋(しょうや)さんがやって来た。
 「これ吉四六や、お前この間、その馬をわしに買うてくれと言うちょったな。五両で買うちゃろ」
 「とんでもねえ、庄屋さん。庄屋さんに断られた日から、こん馬が銭糞(ぜにぐそ)をたれるようになりやして。今じゃ、こうして、毎日銭を拾うとりやす」
 「十両出そう」
 「うんにゃ。こん馬は限りもなく銭糞をたれ続ける馬ぞな」
 「そんなら二十両出そう」
 「なかなか」
 「ご、五十両出す」

 「あとで文句を言って、銭を返せと言わんでしょうな」
 「言わん。絶対言わん」
 「しょうがない。日頃お世話になっちょる庄屋さんのことだ。売りやしょう」

 さてそれから十日も経ったある日、庄屋さんが真っ赤に怒って吉四六さんの家へやって来た。
 「こん吉四六の、大カタリめ。あの馬は、うちに曳(ひ)いて帰ったら、たった一文も銭糞をひらんぞ」
 「へえ?そげなはずはねえがのう。庄屋さんは馬に何を食わせやしたかの」
 「何をって……馬はカイバと、大方(おおかた)決まっちょる。わしんとこじゃ、麦だの豆だの……」
 「銭は食わせましたかの」
 「馬に銭を食わす者があるか。たいがいにせい」

 「そりゃいかん。なんぼ馬でも、食わんものはひられん。今夜、ひとつ銭を食わしてみてはどうかいのう。明日の朝には、必ず食わしたほどの銭糞をたれますじゃろ」
 庄屋さん、口をあんぐりあけて、ものも言わんかったと。

 もしもし米ん団子、早よう食わな冷ゆるど。

吉四六さんと銭糞馬挿絵:かわさき えり

大分県
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