いもころがし
『芋ころがし』

― 埼玉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに庄屋さんがあって、お祝いごとがあったそうな。
 そこで、村人たちもお呼ばれで、ご馳走になることになったと。
 村人たちは、寄るとさわるとこの話
 「なんでも、めいめいに膳(ぜん)がつくっちゅうぞ」
 「へぇ、そういうんだが・・・。膳ちゅうたらなんでも、箸の使い方から食べ方まで決まりがあるそうだが」
 「へぇ!? そんなにやかましいもんかや」
 何せ田舎のことなので、ご馳走の席の作法などは、とんと縁のない者ばかり。
 あっちで、「こまったぁ」
 こっちで、「どうしたもんか」 

 挿絵:かわさき えり
 
 うれしさ半分、こまった半分。
 そこで、みんなはお寺の和尚さんのところへ相談に行ったそうな。
 「よしよし、それなら、わしのするようにまねるがええ。わしは作法を、ちゃんと心得とるでの」
というので、いよいよその日、村人たちは、和尚さんを先頭に大安心して出掛けて行った。 

 「お庄屋さま、今日はどうもおめでとうごいます。みんなしてお呼ばれにやって来ましただ。よろしくお願いしますだ」
 「おうおう、よく来てくれた。さぁさ、あがってくだされや」
とか、なんとか、あいさつをかわすうちに、やがて祝儀の膳が出て、みんなは席についた。
 庄屋さんが、
 「さぁさぁ、冷めないうちに食べて下され」
とうながすと、みんなの首が、いっせいに、ずらぁっと横を向いて、和尚さんの動きを、じいいっとくいいるように見つめた。
 すると、和尚さんはまず、里芋を箸でつまんだ。が、つるっとすべって、里芋をコロコロ転がり落とした。 

 「ほほう、芋ひとつ食うのにも、ああやって転がさねばならんのかや。作法っちゅうのは、ややこしいものじゃなぁ」
と、さっそくその真似をして、我も我もと里芋を箸でつまんで、わざとコロコロ転がし落としたと。
 さあ、和尚さんはびっくり。
 「これは困ったことになったわい」
と、大あわてにあわてて、
 「えへん、えへん・・・」
と、せき払いをした。
 すると、みんなもこれを真似て、
 「えへん、えへん」
とする。 

 和尚さんは、いよいよ顔をしかめて、
 「これ、これはちがう」
と、ひじで隣の者を突いた。
 村人たちは、そこでまた、
 「それ、こんどはひじだ」
とばかりに、つぎつぎにひじでコツン、コツンと突いていった。
 ところが、一番おしまいにいた者が、もう誰もいないので、
 「和尚さん、わしのこのひじは、どこへ持っていったらよかろうか」
ときいた。
 和尚さん、いよいよ困りはてて、逃げ出したくなったそうな。

 こんでおしまい ちゃんちゃん。 

 挿絵:かわさき えり

 
 

埼玉県
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