ねたろうのむこいり
『寝太郎の聟入り』

― 埼玉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに長者の家と貧乏な家とが隣りあってあったと。
 長者には一人娘があって、たいした美人だと。
 その娘もいよいよ年頃になって、聟さがしをしておった。いい聟もらいたいと思うて、村の鎮守さまに願掛けしたと。毎晩、真夜中になると長者夫婦そろって鎮守さまへ行き、
 「ええ聟、授けて下さりませ」
と、祈っていたと。
 村の若い男たちも、なんとか聟に選んでもらいたいと思うて、皆々、一所懸命に働いていたと。
 

 長者の隣の貧乏な家では母(かか)と息子が暮らしていた。この息子はちいとも働かないのだと。毎日、毎日、寝てばかりいるものだから、村の人たちは、寝太郎と呼んでおった。
 その寝太郎もいっちょ前に、
 「何とか長者の娘の聟になるうまい方法はないものか」
と、思案しておったと。働かないで、毎日寝ながら思案しておったと。
 ある日、母が、
 「今日は市日(いちび)だから、野菜を売りに行く」
というたら、寝太郎は、帰りに鈴をひとつ買(こ)うてきて欲しいと頼んだ。
 母は、市の帰りに鈴をひとつ買うてきたと。
 寝太郎は、鈴を受けとると、その暮れ方、珍らしく、起きあがり、
 「おれ用が出来た」
というて、外出したと。
 

 挿絵:かわさき えり
 
 鎮守の森へ行って、観音堂に巣くっている鳩を一羽つかまえると、その足に鈴をくくりつけ、懐に入れた。
 それから、鎮守さまお堂の中で、御神体のうしろに隠れて待った。
 

 やがて、真夜中ごろになったら長者夫婦がやってきた。
 その日は、ちょうど二十一日目で願(がん)明(あ)けの夜であったと。長者夫婦は、
 「神さま、神さま。今夜でちょうど二十一日だス。なんとか、いい聟を授(さず)けて下され」
というて、幾度も頭を下げたり、手を合わせたりして拝んだ。
 寝太郎は頃合いを見計らって、太(ふと)い声で、
 「これ、そこな夫婦、毎晩よく通(かよ)ったな。今日は満願の日だ。お前達の願いは叶えてやる。ええ聟を授けてやるから、よおく聞けよ」
というた。長者夫婦は「ははー」って、かしこまったと。寝太郎、
 「お前(めえ)たちの家(いえ)の隣に、太郎という若(わけ)え者(もん)がおるな。その太郎を聟にとれば家運繁昌、子孫繁栄は間違いない」
というた。 

 「あの、もし神さま、太郎って、あの寝太郎だべか」
 「わしは隣の太郎というた。お前たちの家の隣に他にも太郎はおるか」
 「は、はい、いや、それは・・・しかし寝太郎とは、こ、これ、お前からもお願い申し上げろ」
 「そんなこといったって、神さまのいわれることだも。何か深(ふけ)えお見通(みとお)しがおありなさるんでねえか」
 「そだべか」
 「わかんねけども」
 「寝太郎・・・なあ」
 「これ夫婦、お前たちの願い叶(かな)えたど。こんでわしは帰るぞ」
 寝太郎は、懐から鳩をとり出して、東の空に向けて放り飛ばした。鳩は「チリン、チリン」といい音させて、飛んで行った。
 それを見た長者夫婦は、東の空に向かって手をついて頭を下げた。
 

 「神さま、いたったな」
 「はえ、いい音に包(つつ)まれて帰っていかれた」
 「ンだな。どうもえがったス」
というているうちに、寝太郎は、お堂の裏からこっそり抜け出て、家に戻り、寝たと。
 長者夫婦は家に帰っても寝るどころでない。
 朝を待つのももどかしく、仲介人(なこうど)頼んで、
 「観音さまが授けてくれた聟だァ」
とて、急いで寝太郎をもらいに来たと。
 寝太郎の母(かか)は、びっくりして、
 「おら家の寝太郎なんぞ、とても勤まらねぇべから、駄目だ」
とて、何度もことわったと。
 どうしても、どうしても、と何度も頭(あたま)下げられて、とうとう承知したと。
 

 寝太郎は長者の娘と祝言あげてからは、人柄ががらっと変わったようになって、一所懸命働いたと。
 長者の家はますます繁昌し、子宝にも恵まれて、福々しく暮らしたと。

 どっとはれ。

挿絵:かわさき えり

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