たなばたにょうぼう
『七夕女房』

― 徳島県祖谷山地方 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、ある村にひとりの狩人(かりゅうど)が住んでいたそうな。
 七月のある暑い日に、川のそばを通りかかると、三人の若い娘が水浴びをしていたと。
 「はて、どこの娘ぞ」
と近づいてみたら、岸の松の木に美しい衣(ころも)が掛けてあった。狩人は、その中の一枚をとって隠したと。
 夕方を待って、再び川へ行ってみると、娘が一人、しくしく泣いておった。
 狩人は、何くわぬ顔できいたと。
 「おい、おい。お前はどうして泣いている」

 「はい、私は、実は天人(てんにん)の娘です。ここへは時々水浴(ときどきみずあ)びに降りていたのですが、今日に限(かぎ)って、松の木の枝に掛けておいた私の飛(と)び衣(ぎぬ)が無くなっていたのです。あれが無いと天に帰ることが出来ません」
 「それは困ったことだ。どうじゃろ、行くところがないのなら、おらの家(いえ)に来ないか」
 天人の娘は、下界ではこの狩人より頼(たよ)る人がないので連(つ)いて来たそうな。

 次の日、狩人は大工(だいく)をよんで来て、大黒柱の中をくりぬいてもらった。山へ猟(りょう)に行く前には、必ず、柱の中をのぞいて行くのだと。
 いつしか天人の娘は狩人の女房になり、子供が生まれて、三歳になったと。

 ある日、狩人が山へ猟に行った留守(るす)に、子供が、
 「お父(とう)ちゃんは、山へ行くときにはいつも、この中をのぞいて行くけど、何があるの」
と、大黒柱を指差して、おっ母さんに聞いた。
 女房が大黒柱の中をのぞくと、なんと、自分の飛び衣が隠してあったそうな。
 「さては、あの時飛び衣を盗ったのは、我が夫であったか」
と、なげいたと。
 女房は、飛び衣を着ると子供をおぶって、飛び上がった。
 一度あおると庭の松の木の上に、二度あおると雲の峰(みね)に、三度あおると天上(てんじょう)にとどいたそうな。
 夕方になって狩人が家に帰ったら、誰もいない。あわてて大黒柱の中をのぞくと飛び衣が無い。それで、天に帰ったと知れたと。
 狩人の家の門先(かどさき)には、イゴツルの木があって、それが天まで伸びていたと。

七夕女房挿絵:かわさき えり
 狩人は、あしぐろとでぐろの二匹の犬を連れて、イゴツルの木を伝(つた)って天に登って行った。
 天上の女房の家へ行き、女房の父に、
 「おらを、是非(ぜひ)、この家の聟(むこ)にしてくれろ」
と頼んだと。そしたら父は、
 「ソバ山へ行って、明日一日のうちに三斗三升(さんとさんしょう)の薪(まき)を伐(き)って来たら婿にする」
といった。

 狩人が、とても出来ん、と思って途方(とほう)に暮れていると、女房が、
 「大丈夫、この扇子(せんす)であおげばいい」
といって、一本の扇子をくれた。
 次の日、言われた通り扇子であおいだら、三斗三升の薪の木は、たちまち伐れた。
 そしたら、次に、
 「昨日伐った三斗三升の木株を、明日一日で焼いて来い」
という。
 これも途方に暮れていると、女房が、扇子であおげと教えてくれた。
 次の日、言われた通りにして木株を焼いたと。
 そうしたら、今度は、
 「三斗三升のソバの種を明日一日で蒔(ま)け」
といわれた。
 これも扇子を使って、なんなく済ました。

 そしたら女房の父は、
 「それでは婿にしてやるが、山小屋へ瓜(うり)の番に行ってくれ」
という。女房は狩人にそっと教えた。
 「天上では、瓜は食べてはいけないことになっているから、決して食べないように」
ところが、山小屋に行った狩人は、喉(のど)が乾(かわ)いてならないのだと。
 がまんできなくなって、一つぐらいはいいだろうと、瓜をもぎとったと。

七夕女房挿絵:かわさき えり

 食べようとして割ったら、瓜の中から大水がどおっと出て、狩人はとうとう下界へ流されてしまったと。
 ちょうどその日は七月六日だった。
 七夕様には狩人と天人の女房を祀(まつ)ってあるが、瓜を七夕様にお供えしないのは、そのためなんだそうな。

 もうないと。

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