えすがたにょうぼう
『絵姿女房』

― 鳥取県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに山の木こりがおって、とっても器量良しの娘をもらったそうな。
 好いて好いてこがれてもらったので、ちょっとの間も離れることが出来ん。仕事もせずに女房の顔ばかりながめておったと。
 女房は心配して、
 「おらの絵姿を描いたるけえ、それを持って山へ行かっしゃい」
と、紙を出して自分の顔をさらさら描いたと。
 絵は、いまにも口(くち)でもきくかと思えるほど生き写しだったと。
 木こりは喜んで、絵姿を山へ持って行き、木を伐るそばへ置いて、伐っちゃぁ見、伐っちゃぁ見しておったと。
 

 挿絵:かわさき えり
  そしたら、そこへ、大風がぶぶわぁと吹いた。
 「おい、待て待て」
 大風は絵姿を飛ばしも飛ばしたも京のお城のお殿さまのところまで飛ばしたと。
 「こりゃあ大変じゃあ。あの絵姿を見て、こがなええ女房があるかと知ったら、誰が盗みに来るかわからん」
 木こりはあわてて家へ戻り驚く女房を背負(おぶ)て、どんどこどんどこ連れ逃げたと。
 

 何日めかに、ある林を通っていると足もとには栗がいっぱい落ちとったと。 「ちょっとここへ腰掛けとれ、栗ィ拾って来る」
 木こりは、女房を木株におろして、栗を拾って先へ先へと行ってしまったと。
 ところで、京の殿さまは飛んできた絵姿を見て、さっそく家来に言いつけた。
 「こがなええ女があるなら、ぜひとも連れて来い。わしの女房にする」
 そこで、大勢の家来が絵姿を持ってあちこち捜しまわっとったと。
 ちょうど栗の落ちとる林まできたら、絵姿そのままの女が木株に腰掛けとった。
 「おお、これだ、これだ」
 家来は、いやおうなしに女房を馬に乗せて連れて行ってしまった。
 

 そのころ、栗拾いに夢中になっていた木こりが
 「そうじゃ、大事な女房を一人で置いとった」
と気づいて、あわてて引き返してみたら、女房の姿が見えん。
 「こりゃあ誰ぞにさらわれたにちがいねえ」
 あっちこっち捜し歩いたと。
 そのうち、京のお城にべっぴんの女房がいるらしいという噂を聞いた。
 木こりは、それこそ俺らの女房にちがいない、と思い、ほうろく茶釜を沢山買って、ほうろく売りになって京のお城へ行ったと。
 お城の門の前を何度も何度も行ったり来たりしながら、山できたえたノドで、
 「ほうろくやぁ」
 「山の木こりのほうろくやぁ」
 「ええ―ほうろくやぁ」
と、呼ばったと。 

 お城の中の女房は、その声を聞いてにっこり微笑(ほほえ)んだと。
 それを見た殿さまは、笑顔ひとつ見せたことのない女房が初めて微笑(わら)ったから、嬉しくなって聞いた。
 「ほう、ほうろく売りが面白いか」
 「はい、ほうろく売りを見たい」
 殿さまは、これまた初めて口をきいてくれたのでいっそう嬉しくなった。「よし」と膝(ひざ)を叩いて、さっそくほうろく売りを呼び入れ着物を取り換えたと。
 ほうろく売りになった殿さまは、
 「ほうろくや、ほうろくや」
と、呼んでまわった。
 女房はころころ笑ったと。
 調子に乗った殿さまは、門を出たり入ったりしとったと。
 その内、夜になって門番が門を閉(し)めてしまった。殿さまはあわてて門番に、
 「わしじゃ、わしじゃ、ほうろく売りじゃ、いやちがう、わしじゃ」
と言うたけれども、門番はとりあわんのだと。 

 そうやって、殿さまはほうろく売りになってしまうし、木こりは殿さまになって、好(す)いた女房と一生お城でええ暮らしをしたそうな。

 むかしこっぽり。

 

 挿絵:かわさき えり
 
 

鳥取県
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