あたまをそったねこ
『頭を剃った猫』

― 富山県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 平辻 朝子
提供 フジパン株式会社

 むかし、ある寺に年をとった猫(ねこ)がいたと。

 ある日、その猫が和尚(おしょう)さんの前にきちんと前足を揃(そろ)えて
 「おら、昔からたくさんの鼠(ねずみ)を殺(ころ)した罪(つみ)ほろぼしに、ご坊(ぼう)さんになりたいがで、頭を剃(そ)ってくだはれ」
と、頼(たの)んだと。


そこで和尚さんが、
 「回心懺悔(えしんざんげ)とは感心(かんしん)。頭剃ってやれども、おまえ、お経(きょう)読まるっかい」
ときくと、
 「お経くらいどっだけでも読まるって。おら、この寺へ来てから和尚さんで三代仕(つか)えたがやれど、和尚さんみたいお経読みの下手(へた)くそな者おらん」
というた。和尚さん、一本取られて参(まい)った。

 「そっか。お経読むんが上手なら、頭剃ってやるちゃ」
というて、その猫の頭を剃り、にゃんごん坊という名前をつけてやったと。
 喜(よろこ)んだにゃんごん坊は、それから毎朝毎晩(まいあさまいばん)本堂(ほんどう)で和尚さんと一緒にお経を読んだと。
 
 
頭を剃った猫挿絵:かわさき えり


 あるときのこと、和尚さんが出掛(でか)けて、にゃんごん坊が留守番(るすばん)をしたと。にゃんごん坊は独(ひと)りでお勤(つと)めしておったが、読経(どきょう)を済(す)ませたら他にすることがなくなった。
そこで和尚さんのように説教(せっきょう)をしてみたくなった。高座(こうざ)に上がると何やらえらいご坊みたいで気持ちがいい。「えっへん」とせきをして説教の稽古(けいこ)を始めたと。

 そのとき、天井裏(てんじょううら)では鼠が走り回っておったが、下から妙(みょう)な説教が聴(き)こえてきた。天井板の隙間(すきま)から見下ろすと、本堂の高座(こうざ)に頭を剃った猫が得意顔(とくいがお)で説教の稽古をしとった。


 そこへ別の鼠がきて、
 「やあ、何見とんがい」
ときいた。
 「何もかんもあったもんかい。ここをちょこっと見てみい。猫のくせに頭剃って説教しとる」
 まさかと思いながら、その鼠ものぞいた。
 「ありゃりゃ、猫のくせに」
と、びっくりしていたら、また別の鼠がきて、
 「やぁ、何をびっくりしとるがい」
ときいた。
 「何もかんもあったもんかい。ここをちょっこし見てみい」
というので隙間から下をのぞいて、びっくりした。こともあろうに天敵(てんてき)の猫が坊さまのように頭を剃って高座で説教しとる。見間違(みまちが)いかと思うて、今度は身を乗り出してのぞいたら、あれま、天井板(てんじょういた)の隙間が広がって、真っ逆(さか)さまに下へ落ちた。こともあろうに、にゃんごん坊の頭の上に落ちたと。

 
頭を剃った猫挿絵:かわさき えり
 
 すると、にゃんごん坊の目がギランと光り、爪(つめ)もニュッと立った。

 鼠は胆をつぶして、あわてて走り逃げ、鴨居(かもい)の上へ隠(かく)れた。
 にゃんごん坊は、それを目で追いかけ、
 「回心懺悔のこの猫に、何が恐ろしゅうて、鼠隠るる」
というたら、鼠は鼠で、
 「回心懺悔はよけれども、眼(まなこ)も爪もいまだ変わらん」
というて、まだ息をハァハァさせていたと。
 
 語っても候(そうろう) 語らんでも候。

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