うしになったこぞう
『牛になった小僧』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 昔トントのまた昔。
 あるところに貧乏な家があって、爺(じ)さまと婆さまが暮らしておったと。
 ある冬の吹雪の夜、
 「ごめんなんしょ」
 って、戸を開けて入って来たものがあった。
 「こんな夜に誰だべ」
 って、爺さまが障子をあけたら、土間に小僧(こぞう)さんが雪(ゆき)まみれで立っておった。
 「旅の小僧コだども、道イ迷って困(こま)てます。 どうぞ一晩だけ泊めでくだされ」
 「あれゃ、そりゃまんずまんず大変だったな見たとおりの貧乏家(や)で、何にも無いども、火(ひっ)コばりァあっさげ、あたりなされ」
 

 挿絵:かわさき えり
 って、小僧さんをあげて、囲炉裏に招(よ)んだと。
 「まんず、お湯コの一ぷくもあがって呉(け)さい」
 って、出したら、小僧さん、よっぽどくたべれていたもんだから、炉ブチに寝転んでお湯をすすった。それを見た婆さまが、
 「あれゃ、小僧さま、寝でで物ばあが(食)るもんでないてば」
 って、言っている間(ま)に、小僧さんは一匹の可愛い黒い牛になってしまったと。
 

 爺さまと婆さまはびっくりして、家中(いえじゅう)の仏様やら神様やらに願かけをした。したが、どう拝(おが)んでも元の小僧さんの姿にかえらない。
 仕方なく、その牛を我が子のようにして育てたと。
 そしたら、これがまた良く稼(かせ)ぐ牛で、爺さまと婆さまの暮らしが、たちまち楽になったと。
 この隣りに、欲の深い爺さまと婆さまが居たと。
 隣りの貧乏家がたちまち福々しくなったので、うらやましくてならない。わけを知りたくて知りたくて、じっとしていられない。聞きに行ったと。
 「こっつの家でぁ、なじょして、こがえ福々しくなった事(ご)で。お恥(しょ)しども、いっちょ話コして呉申(けも)さい」
 っていって、小僧さんが牛になった話を聞いたと。
 

 「オラもいっちょ真似して、牛(べこ)コ儲(もうけ)てみんべ。まんず、ごめんなんしょ」
 って、わらわら、家に戻って欲深か爺さまに語って聞かせたと。そしてその日から、街道を通る小僧さんはいないかと、目をきょろつかせて待ちかまえたと。
 そしたら、向こうから小僧さんが一人、お念仏をとなえてやってくるのが見えた。
 欲深婆さま、その小僧さんをつかまえて、
 「まんず、まんず、一晩泊まって呉(けん)さい」
 って頼みこんだもんだ。小僧さんが、
 「先を急ぐから、出来無(できね)え」
 って断るのを、無理やりおっとり込んで引きのんで、お膳に御馳走をたんと盛って、それ食え、やれ食えって、すすめながら自分も食ったと。小僧さんが、
 「ごっつぉさま」
 

 って、お礼をいうと、欲深か婆さま、
 「お礼なのええがら、まず寝でござえ」
 ってすすめたと。
 「食って直ぐ寝っと牛になり申(もう)すがら、寝ることぁ出来(でげ)ねぇ」
 って、その小僧さんが賢いことを言うもので、婆さま、気ぃもんで、
 「んだら、オレ、先に寝でみっから、小僧さまも寝てござえ」
 って。婆さまが寝転ぶと、ありゃまあ、すぐに年寄り牛になってしまったと。
 牛になった欲深か婆さまは、一生小僧さんを乗せて、旅したと。

 ドンピン、サァスケ、人の真似ざァするもんでねえ。
 

 挿絵:かわさき えり

山形県
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