ゆきじょろう
『雪女郎』

― 山形県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、むかし、とんと昔。
 山形県の小国郷(おぐにごう)の雪野っ原(ゆきのっぱら)に、東の家と西の家の二軒の家があったと。
 吹雪(ふぶき)がヒュウヒュウ吹く夜のこと、どこからか白い衣(ころも)を着た女が一人やってきて、東の家の戸を叩(たた)いた。
 ホトホト、ホトホト。
 「いったい誰じゃ。こんな寒い晩に」
 東の家の親父(おやじ)は根性悪(こんじょうわる)だったと。
 たいぎそうに戸を開けると、
 「何の用じゃ」
と聞いた。女は、
 「旅の者でござります。吹雪で道に迷ってしまいました。難儀(なんぎ)しています。どうか一晩のお宿、かしてもらえませんでしょうか」
 

 挿絵:かわさき えり
 「見ず知らずの女にか」
 「土間の隅(すみ)っこでも良いですから、どうかお願いいたします」
 「俺(お)ら家(え)では、病人おるで泊めらんねえ。隣(となり)さ行って頼めや」
 東の家の親父は嘘(うそ)こいて、寒そうにこごえている女の鼻先で、戸をピシャンと閉めた。
 

 女は氷のような眼をスーッと細めて、閉められた戸をじいっと見つめた。それから西の家を訪ねた。
 ホトホト、ホトホト。
 「はやぁ、こんな吹雪の晩に出歩くお人がいるとは。爺(じい)、ちょっと出て下さいな」
 婆(ばあ)に言われて、爺が戸を開けたら、戸口に白い衣で今にも凍(こご)えそうな女が一人立っておった。
 「あれゃ、おどろいた。ささっ、そんなところにいないで、とりあえず家(うち)の内(なか)に入って。ほれ」
 って、西の家の爺、女の手を引いて土間に入れ、箒(ほうき)で雪を払ってやったと。
 「婆、見ての通りだ。温(ぬく)い茶を一杯たのむ」
 「はえはえ」
 

 って、婆が茶碗(ちゃわん)を差し出すと、女はためらいながら飲んだ。そして、
 「こんな夜にすみません。私は旅の者でござります。吹雪で道に迷ってしまい困っていました。一晩お宿をお借りしたいと思い、戸を叩きました」
というた。爺は、
 「そうか。こげなときはお互いさまだで、そうとわかれば、さぁさぁ、貧乏所帯(びんぼうじょたい)の爺と婆の二人だけの家だ。何も無いけども、ごゆるりとしてござっしぇ。なあ婆」
 「はえ、はえ。どうぞ何ぼでも泊まってけ」
 って、やさしく泊めてやったと。吹雪は一晩中吹き荒れた。女は爺と婆をやわらかな眼ぇで見、あらためてお礼を述(の)べて寝たと。

 次の日の朝、吹雪が嘘(うそ)みたいにおさまって、おだやかな晴れの朝だったと。
 西の爺と婆は、囲炉裏(いろり)の火をゴンゴン燃やして、女が起きてくるのを楽しみに待っていた。が、女はなかなか起きてこなかった。
 

 「どうしたや、なんぼか疲れていたのだべか」
 「ちょっくら、見てきようか」
 って、婆、女が寝ている部屋のふすまを開けたら、女の寝息(ねいき)が聞こえないのだと。
 「どうしたべ」
 って、掛け布団をそおっとはいでみたら、寝床(ねどこ)には女の姿はなくて、その変わり、ビシャビシャに濡(ぬ)れた白い衣に包まった、黄金(こがね)の一塊(ひとかたまり)が転がっているばかりだったと。
 女は雪女郎(ゆきじょろう)であったと。西の家の爺と婆の温かい心で、雪の体が解けてしまったと。
 西の家は、その晩から福づいて、一生安楽に暮らしたと。逆に、東の家では性悪親父(しょうわるおやじ)が本当に病気になって、ひどい貧乏になったと。
 雪がヒューヒュー吹雪く夜に、訪ねてきた旅のお人を泊めてやると、必ず福を授(さず)けて行くのだそうな。

 どんぺすかんこねっけど。
 

 挿絵:かわさき えり

山形県
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