ふくはそと、おにはうち
『福は外、鬼は内』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかしむかし、あるところに貧乏(びんぼう)な夫婦がいてあったと。
 節分が近づいた頃、夫と女房は、
 「そろそろ節分がくるが、今年から『福は内、鬼は外』っちゅうのをな、やめたいと思うんだけど、どうだべか」
 「あれま、どうしてだぁ」
 「うん、節分には全部の家から『鬼は外』っちゅうて豆ぇぶっつけられる鬼がなんだか可哀想(かわいそう)になった。『鬼の目ン玉ぶっつぶせ』なんて、今年は言えそうにない」 

 「なしてぇ」
 「うん、去年は作物(さくもつ)が不作の年だったのに、年貢(ねんぐ)はまけてもらえなかったべ。この村でも食うや食わずの家はいっぱいある。俺らん家(ち)も、かつかつの貧乏暮らしだ。天気に蹴られ役人にいじめられ、泣きたい、逃げ出したいと何度も思ったべ。鬼だって世間じゅうから煎(い)り豆ぶっつけられて、泣きたいと思っているべ。節分の日ばかりは、鬼も俺らと同じでないかと思ってな」
 「あれまぁ、そう言われればそうだぁ。そんなら、今年からどうするんかい」
 「世間さまとは変わった家が一軒ぐらいあってもいいべ。俺らん家は『福は外、鬼は内』って言ってやるべ」
 「どうせ福は来そうにないから、そうしようか」
と、こう話し合うたと。 

 節分の日が来た。
 あっちの家でもこっちの家でも、
 「福は内、鬼は外」「鬼の目ン玉ぶっつぶせ」
 って始まった。
 鬼ども、「イテテッ、イテテッ」って逃げまどっていたら、
 「福は外、鬼は内」
 って呼ばっていた家があった。
 「はぁ、いい家があった」
 って、鬼ども皆そこの家さ、逃げ入ったと。
 そこの夫と女房に、
 「いやぁ、ありがてぃ。今晩は世話になる」
 って言うたら、夫が、
 「俺らとこ貧乏でなんにもないけど、茶でも飲んでひと休みしてけぇ」
と言うた。
 「茶より酒がいい。今出すからお前(め)も呑め」
 って言うて、打出の小槌(うちでのこづち)で御馳走(ごっつぉ)を出す、酒を出す、あれよあれよという間に酒盛りが始まったと。 

 挿絵:かわさき えり
 節分の晩に馬鹿に景気のいい、どんちゃんどんちゃん音がするものだから、隣の爺さまが覗きにきた。
 覗いてみたら鬼どもが酔払って大宴会をやっている。 

 この家の夫と女房も酒呑んで御馳走を食べて、いい気なもんだ。爺さま、夫を手招きして呼び、
 「お前、酔払っているだか。鬼ども集めて大丈夫だか」
 って聞いた。酒呑んでいい気分の夫は、
 「俺らは正気だ、大丈夫」
 って、言うた。そしたら、鬼どもピクンとして、
 「なにぃ鐘馗(しょうき)さまだとぉ」
 って言うて、大あわてだ。
 「こりゃ大変だぁ。ここの夫、鐘馗さまが化けとる」
 「どうりで『鬼は内』って言うはずだ。いやぁ殺されねぇうちに、みんな逃げろやぁ」
 って言うて、鬼ども、皆逃げて行ったと。
 あとには、打出の小槌が、あっちにもこっちにも転がってあった。夫と女房二人してその打出の小槌を拾い集めた。振ってみたら、この小槌は米が出る、こっちの小槌は金が出るして、大した分限者(ぶげんしゃ)になったと。

 ※鐘馗…道教系の神。日本では疱瘡除けや学業成就のご利益があるとされ、端午の節句に絵や人形を奉納する。 

 挿絵:かわさき えり
 こんなことがあるから、人と変った事をしてもいい事があるもんだ、って昔の人は言うたもんだと。

 どんべんからりん
  すっからりん。 

山形県
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