いつかのばんげ
『いつかの晩げ』

― 山形県 ―
話者 佐藤 亀蔵
再話 佐藤 義則
整理・加筆 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 トント昔、あったけド。
 ある村さ、女子(おなご)の六部(ろくぶ)ァ一人旅して来たけド。
 晩方(ばんかた)なったどて、道端(みちばた)の家(え)さ、
 「どうが、今夜(こんにゃ)一晩泊(と)めで呉(け)らっしゃえ」
って、泊まったけド。
 六部ァ、晩飯(ばんめし)ば御馳走(ごっつぉ)なってがら、寝る前の習慣(ならい)で、鉦(かね)コ鳴らしておつとめあげだけド。

 戸の蔭(かんげ)の寝床(ねどご)で、ほの音聴いでだ此(こ)の家(や)の父(と)っつァ、てっきり、銭(じえん)コ数(かじえ)でる音え聴(き)いで、
 「この六部ァ、えっぱえ銭コ持ってら事(ごん)だナ」
どて、悪(わり)い心起(さ)して、夜(よ)ん半(ま)、六部ば殺(あや)めですまったけド。
 
いつかの晩げ挿絵:かわさき えり

 ほして、銭コさがしてみだげんの、銭コァさっぱり持ってねけド。
 「さァさ、大変事(おおごど)したちゃ、本に」
どて悔(く)やんでも、も早(はや)取り返すつかね。
 部屋の内(なか)ァ血の海地獄(じごく)えなって、足の踏(ふ)み場もないほどで、朝方(あさげ)までかがっても血ば拭(ぬぐ)いあげらんねけド。
 父っつァ、家の者さ、決して他人さ口外(しゃべ)らねようえ、固(かた)ぐ固ぐ言っておいだけド。

 ほれがら三年ばり事もなく過ぎだけァ、父っつァ胸(むね)なぜおろして、村のお祭りさ、大(お)っけ鯉(こい)ば供(あげ)だけド。
 お祭り過ぎでがら、供だ鯉ば直会(おさがり)して戴(いただ)ぐべどて、村の人達(しとだ)、みんな父っつァの家さ寄(よ)ったけド。
 父っつァ、鯉ばまな板さ乗へで、包丁(ほうちょう)でズバッと頭もえだれば、これァすたり、血が、じょごじょご、じょごじょご溢(あふ)って、座敷(ざしき)ァ血の海地獄えなったけド。

 ほごさ、ほの家の童(わらす)コァ出はて来て、動転(どで)して、
 「あやァ、えずがの晩げ、女子六部ば殺めだ様だえ。えっぱえな血ァ出た事だ」
どで、叫(さが)んだけド。

いつかの晩げ挿絵:かわさき えり

 ほんで、ほの父っつァ、役人(やくにん)に捕(とら)えらって、六部殺すの一部始終(いちぶしじゅう)ば白状(はくじょう)したって言う事だド。
 人ざ、悪い事ば隠し切んねェもんだけドヤ。

  ドンビン サンスケ ホーラの貝。



山形県
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