にわかちょうじゃ
『俄か長者』

― 山形県 ―
再話 武田 正
整理・加筆 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社

 むかしとんとんあったずま。
 ある村さ、とても働(はたら)き者の若い衆(し)いだけど。
 その若い衆、何とかして物持ちになって、長者(ちょうじゃ)さまになってみだいと、常々(つねづね)思っていだけど。
 ある日、旅さ出たんだと。したれば、いづしか日がとっぷり暮れで、困ったなあと思って、ふと脇(わき)見だら、村はずれに一軒家(いっけんや)があったんだど。

俄か長者挿絵:かわさき えり
 そごさ行って一夜の宿(やど)たのんだれば、その家の主人(しゅじん)がこころよく引受けで呉(け)だど。

 まずは、何もなくとも夕飯(ゆうはん)ということで、お膳(ぜん)が運ばれてきた。
 お汁(つゆ)からいただいて、それがらご飯という具合にいったら、口の中でザリザリした。
 「あるじ、何でザリザリするんだ」
て聞いてみたら、
 「味噌(みそ)が足りないがら、少々壁土(かべつち)入れたんだ」
て言った。また、お汁の実がばかに固(かた)い。聞いてみだら、
 「ほだなわけないんだがなあ、新しい藁(わら)入れだんだがら」
て言った。馬とでも間違っているのでないがと思って、
 「これこれ、あるじ、魚はないのか」
て聞いたら、
 「あいにく切らしたから、浜さ行って買ってきて呉らっしゃい」
て言われで、買いに行こうとしたら、
 「お客さん、この辺(へん)の人は足元見っから、下から値(ね)をつけて買ってござっしゃい」
て教えらっだど。

 いよいよ浜さ行ったれば、漁船(ぎょせん)が今入ったばりだけど。鯛(たい)やらまぐろやらいっぱいあっけど。
 「これこれ、この魚売ってもらいたいんだが、鯛十尾(じゅうび)、まぐろ十尾で一銭(いっせん)でどうだ」
て言うたれば、「はーい」て言うて、
 「鯛十尾、まぐろ十尾で一銭お買い上げ」
て、大きな声で言うた。
 やれ安い、言うてみるもんだ思うたら、
 「その他、小鯨(こくじら)一頭おまけして」
て言う。どぎも抜かれて、届けてもらうことにしたんだど。
 意気ようようと泊(と)まっている一軒家に帰って来て、あるじに話したら、
 「お客さん、やっぱし足元見られっだな。一銭も出したら、船ごど網(あみ)ごど、人足(にんそく)も、鯨など三頭もつけで買うにえがったべな」
て言われだ。
 「この村では、五両持った人が一番の長者さまで、代々庄屋(しょうや)さましておいでになるが、あなたいくらぐらい持ってござる」
て聞かれだど。

 「たんともないが、三拾両(さんじゅうりょう)はある」
て言うたら、あるじがぶっ魂消(たまげ)で、
 「おれが悪いようにしないがら、この村で暮らして呉ろ。一両も出すど土地も買われるし、一両も出すと家も建つ」
て言われで、この村に落ちつくことにしたけど。
 今度、長者の娘もらって呉ろ、来年改選(かいせん)だから庄屋さまになって呉ろ、なて言わっで、両手に花でまことにこの上ない。大したいい事になったもんだと思って、アハハ、アハハて笑っていだれば、頭、ピシャって叩(たた)かれだ。
 「何ねぼけでんなだ、さっきから」
て言わっで目えさまして見だれば、奥(おく)さんが、馬鹿(ばか)でないのこのひと、ていう目で見でいだけど。夢だったど。

  どんぴんからりん、すっからりん。

俄か長者挿絵:かわさき えり

山形県
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