よぞうぬま
『よぞう沼』

― 山形県 ―
再話 野村 敬子
再々話 六渡 邦昭
語り 平辻 朝子
提供 フジパン株式会社

 むがし、むがし。
 山形(やまがた)の庄内(しょうない)さ向かって行く方さ、炭焼(すみや)きしたっだ よぞう っていう男(あに)いであったけど。
 そのよぞう、大変に働(はたら)ぎのええ人でな、仲間(なかま)の男と二人して、春にもなったんだし、山さ稼(かせ)ぎに行ったど。

 ほして、昼になったもんで、
 「昼飯(ひるめし)にすっぺや。俺(おれ)、腹減(へ)ってしやね」
て、二人でご飯食うごどにしだど。仲間は、
 「俺、きれいな水汲(く)んで来る」
て、沢さ下(くだ)って行った。
 よぞうは小川の側(そば)で火ば燃(も)やしていだ。
 
よぞう沼挿絵:かわさき えり

 火さあだりながら、のんびんだらりど小川を見でいだら、何の魚だんだが、赤げな雑魚(ざっこ)が泳(およ)いでいだど。
 「これだば焼いで昼飯のご馳走(ちそう)にするべえ」
て、獲(と)ってみだ。仲間の分も獲っだ。ほうして焼いだど。
 すっとな、ええ匂(にお)いがして、ええ匂いがして、とても我慢(がまん)してらんね。
 「ひどつ、食ってみるか」
て、ぽちっと食った。
 すっと、美味(んめ)どおな。美味もんで、とても食わねでらんね。頭の後ろばしょこしょこど食ったれば、腹も食わずにいられんね。つい、尾(お)っぽの先(さき)っぽまでべろっと全部食いあげでしまった。仲間の分までべろっと食いあげだど。

よぞう沼挿絵:かわさき えり
 
 さあ、そうしたれや、よぞう、喉(のど)が渇(かわ)いでなや。水ば飲みでくて、小川の水ば掬(すく)って飲んだと。なんぼ飲んでも喉の渇いだなば元(もと)さ戻(もど)らねど。焼けるように喉が渇いで、ついには小川さ顔つっこんでゴグラゴグラど、水が無(な)くなってすまうまで飲んだったど。

 すっと、よぞう、何だか妙(みょう)なごどになってな、尾っぽがビョンど出て、手さ鱗(うろこ)が生(は)えできた。
 その様子(ようす)を、水汲みから戻った仲間が岩陰(いわかげ)に隠(かく)れて見ておった。
 とうどう、よぞうは蛇体(じゃたい)になってしまったなよ。
 「俺、こんたな蛇体に変わってしまっては、何じぇもしゃねけど。生きて恥(はじ)晒(さら)すこと無(ね)。このまま沢さ落ぢで死(し)ぬがは」
て、よぞう思ったど。
 ほすっと、そのあたりいったい水がまんまんとある、大っきな沼に変わってしまっだ。よぞう、そこさザブンど漬(つ)かって、沈(しず)んでしまった。そして、その沼の主(ぬし)になったけど。

 よぞうがあんまり帰って来ねもんで親が心配(しんぱい)していたら、よぞうと一緒(いっしょ)に行った仲間が転(ころ)がるように家さ駆(か)け込(こ)んできた。して、
 「よぞうが、よぞうが、蛇体になったあ」
って最初から終(しま)いまで見たことを話したと。親は、
 「そんなことあるもんだか」
って思ったれども、あわてて山さ行ったど。すっと、見たことのねえ大っきな沼、出来とった。その縁(へり)に立って呼ばった。

 「よぞう、よぞう」
って。
 すっと、恐(おそ)ろしげな蛇体が沼からザーッと立ち上がって、親をじいと見ているど。
 
よぞう沼挿絵:かわさき えり

 親は恐ろしくって、後退(あとじ)さったけんど、そこは親の感が働(はたら)いで、
 「よぞう、お前(め)か」
て、聞いたれば、蛇体の目がら涙(なみだ)こぼれたど。
 「よぞう、やっぱりお前か。何してそんな蛇体になったかや」
て、聞いたって、蛇体は身悶(みもだ)えするだけだ。
 親はあきらめてはぁ、遠ぐから、
 「よぞう、よぞう、よっく聞げ。決して里の人さ害(がい)するもんでねえど。雨が降(ふ)るのが分かったらば、沼さ波立でろ。雨が降らねぐて田の人達あ困(こま)ってらったらば、願(ねが)いは聞き届(とど)げるもんだぞ。わがったが」
て、教え悟(さと)して、泣ぎ泣ぎ家さ戻ってったど。

 よぞう沼は、んださげて、田の水が干上(ひあ)がったとき、あそこさ行って水を掻(か)き回して来るど雨がくるし、こっちの村さ雨がくるときは、
 「まず山の方のよぞう沼さ波立ったさげ、雨降るぞ」
て、ちゃんと知らせるなだど。

 六月一日には“蛇体の皮脱(かわぬ)ぎ”て、蛇がいるがら、決してよぞう沼の近まさ行ぐなよ。

  どんべからっこ ねっけど。

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