きつねのよめいり
『狐の嫁入』

― 山梨県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、と言っても、つい此(こ)の間(あいだ)。そうさな、五十年ほど前だったろうか。
 山梨の金山(かなやま)っちゅうところに、炭焼きの爺(じ)さまがおっての。
 爺さまは、山で炭焼いてそれを町へ売りに行ってたんだが、町からの帰りに山道(やまみち)に差しかかったんだと。
 あったかい風がフワフワ吹いて来て、なんだか、きみのわるい晩だったそうな。
 「はて、おかしいな」
と、思って、ヒョイと前の方を見たら、きれいな娘が提灯(ちょうちん)を持ったお供(とも)を連れて歩いている。 

 挿絵:かわさき えり
 「こら、いいあんばいだ。あの提灯に連いて行こう」
と、急ぎ足で歩いたが、間(ま)が縮(ちぢ)まんないんだと。それなら、と、今度は走ってみたけれども、やっぱりおんなじに離れている。
 「お、こら不思議じゃねぇか。ことによると、あら狐(きつね)だかも知んねぇ」
 暗闇(くらやみ)を透(す)かしてよおく見たら、お供の尻(しり)っぺたから、でっかい尻尾(しっぽ)が出てブラブラしているんだと。 

 爺さまはおかしくなって、
 「おおい、その尻尾、まちんとひっこませや」
と、言ったら、すぐ半分(はんぶん)程(ほど)引っ込んだ。
 「おおい、化けるのなら、まちんと上手に化けれや。そげな化け方していると、ほれ、つかめえちゃる」
 爺さまがおどけて手をのばすと、娘狐はたまげて、一声鳴(な)いて逃げて行ったんだと。
 お供狐も提灯をおっぱなして逃げて行ったんだと。
 「おや、狐の提灯とは珍(めず)らしい」
 爺さまは、それを拾って帰ったんだと。

 次の日、夜更(よふ)けに戸をたたくもんがいる。 

 戸を開けてみると、きれいな女が立っていたそうな。
 「夕べの提灯、どうか返してくんなせ」
 「うんにゃ返せねえ。おめえ、狐けえ。この提灯、珍しいから大事にとっておこうと思っている」
 「おら狐だ。娘を嫁にやるのに、今夜その提灯がいるんです。どうか返してくんなせ」
 爺さまは可哀(かわい)そうになって返してやったと。

挿絵:かわさき えり

 その晩の夜中に狐の嫁入(よめい)りがあっての、提灯が、いくつもいくつも揺(ゆら)めいて、それはきれいだったそうな。

 こんでちょっきり一昔。 

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