なまけがみ
『怠け神』

― 山梨県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところに大変な怠(なま)け者(もの)がおったと。
 自分の食う物をとるのさえ億劫(おっくう)なくらいで毎日寝てばかりの暮らしだったと。
 屋根は雨漏(あまも)りさせとくし、壁(かべ)が落ちても塗(ぬ)りかえないし、家の隅(すみ)に黴(かび)や草が生えてもそのままだし、それでも働く気にならなかったので、嬶(かか)も子(こ)もつくづく愛想(あいそ)をつかして実家(じっか)へ帰ってしまったと。
 それでも怠け者は
 「なあに嬶も子も、いなけゃいないで、これでさばさばしたもんだ」
 いうて、ゴロゴロ寝ておったと。 

 挿絵:かわさき えり
 ある日、戸口に掌(てのひら)に載せられそうな、小っこい、痩せっぴいの哀れっぽい男がやって来て、
 「わしは、お前の名前を慕(した)ってわざわざ訪ねて来た者(もん)じゃが、ぜひ置いてくれんか」
という。怠け者が、
 「置くも置かんも、見る通り嬶も子も逃げ出す有様(ありさま)だで、食うものとて無い。とても他人(ひと)様を置いてやるわけにゃ行かん」 

 と答えると、その小男は、
 「いや、わしは、そういう怠け者の貧乏人が大好きだ。それでわざわざ訪ねて来たのだから、どうにでも置いてもらうつもりだ」
といってきかない。
 怠け者は、これ以上問答するのもおっくになって、「そんじゃあ」といって家に入れてやったと。
 その日から二人して、毎日ゴロゴロ寝ておったと。

 そしたら、妙(みょう)な事(こと)に、小っこい痩せっぴいの男が次第にムクムクと肥えて大きくなりだしたと。
 日が経(た)つにしたがって、肥(こ)えるは肥えるは家一っぱいに肥えて、しまいには、怠け者が隅っこへギュ―と押しつけられて、寝る場所もないようになってしまったと。怠け者は、
 「お前は、来たときにはあんなに小(ち)っこい痩せっぴいだったのに、一体全体どういうわけだ」
と聞いてみた。そしたら、 

 「わしは、実は怠け神だ。ここへ来る前までは大へん稼ぎ者の金持ちのところに居て、それであんなに痩せて小っこくなるまで、ひどい目にあった。
 ところが、お前の所へ来てからは、お前が怠けてばかりいてくれるから、わしもこんなに肥える事が出来て大変ありがたい」
といってご機嫌(きげん)ものでニコニコするのだと。

挿絵:かわさき えり

 そのうちにも、その怠け神はムクムク肥えて、とうとう、怠け者を家の外へ押し出してしまったと。
 家の中におれなくなった怠け者は、さすがにこの寒む空に外で寝るわけにもいかない。
 仕方なく他所(よそ)へ行って仕事の手伝いでもして飯と寝る場所をもらうより仕様(しよう)がなくなった。
 そうして、だんだんやってみると、稼ぐという事もそんなに嫌な事でもなし、稼げばきっと二文なり三文なりの金ももらえ、飯も食えるし、人もまっとうに見てくれるので、怠け者は、だんだん稼(かせ)ぐようになって行ったと。
 ところが、そうして働いて晩方(ばんかた)我が家へ帰ってみると、家いっぱいに肥えていた怠け神は、ひどく不機嫌(ふきげん)な泣き顔をして、前よりはずっと痩せて来たようだと。そして、
 「おいおいお前、稼ぐなんちゅうくだらん事はやめろ」
というのだと。 

 けれども怠け者は、今では稼ぐことがすっかり面白くなって来たので、ますます働いたと。
 すると怠け神もズンズン痩せ細って、しまいにはまた元の通り、糸のように細い、豆っ粒のような小っさい男になったと。そして、
 「これではとても居たたまれん」
といって、ある日、とうとうその家から逃げ出してしまったと。

 怠け者だった男は、今ではすっかり働き者になって、家も建て直し、身代も出来て、嬶や子も呼び戻し、みちがえるような暮らしをしたと。

 いちごさけえた。 

 
 

山梨県
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