もぐらとうまとにんげん
『モグラと馬と人間』

― 山梨県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 日本(にっぽん)は細長い国で、南と北では季節感がすこうしずれているわねぇ。でも、五月の今ごろは農家は、日本のどこもかしこも田や畑の仕事で大忙しの季節。 南国では、もう、田の苗植(なえう)えも畑の種植(たねう)えも終えてひと息ついておろうが、北国では、今が田の代掻(しろかき)や畑の畝(うね)おこしでご苦労のまっ最中でありましょう。
 代掻ちゅうても、農家でないお人(ひと)には馴染(なじみ)のない言葉でわかりませんかねえ。
 代掻というのは、田植えをする前の作業で、田に水を充(み)たしてから犂(すき)で土塊(つちくれ)をおこして砕(くだ)き、田の土面(つちづら)を平(たいら)にする作業で、普通は、荒代(あらしろ)、中代(なかしろ)、植代(うえしろ)と三回やります。 

 これをきちんとやっとかないと、田から水モレがおきますし、せっかく植えた苗のつきが悪かったり稲の育ちも悪くなります。
 代掻は、今でこそ機械化されて農業用トラクターでやりますから大分楽になりましたが、昔は牛や馬に犂をひかせてやっておりました。
 子供か女が牛か馬の鼻とりをしてひっぱり、力のある男衆(おとこし)がそのうしろから犂を土に押しつけてやったものです。 牛も馬も人も泥まみれでやったつらい作業でありました。

 畑仕事でも畝おこしは、たいがいは人が鍬(くわ)や鋤(すき)でやったものです。
 そんだけ苦労しても、モグラが穴を掘るので、モグラ叩きはかかせません。
 田畑の仕事には人と馬とモグラがついてまわりますが、これは、なんでも神さまがお決めになったことなんだそうです。 

 昔むかしの大むかしに、国じゅうがひどい飢饉(ききん)にみまわれまして、食べ物にひどく困ったことがあったそうです。

 ある日馬と人間が道で出合って、食べ物がなくて困る話をしていると、そこへモグラがやってきて、

挿絵:かわさき えり

 「俺たちがこんなに困っているのに、神様のお蔵(くら)には穀物(こくもつ)がギッチリ積(つ)まっているっちゅうこんだぞ」
といいました。馬が、
 「俺も聞いたが、神様はいっこうに分けてくれるふうでもないなぁ」
というたら、モグラは、
 「ケチな神様なんか、糞(くそ)くらえだ。いっそ押し込んでやるべ」
といいました。人間が、
 「おそれおおいこというな。俺はそがいな罰当(ばちあた)りなことはいやどぉ」
というたら、モグラが
 「なあに、かまうこたぁねえ。ケチ神(がみ)のところから穀物を盗み出さざあ」
というて、馬と一緒に出かけましたそうです。 

 神様のところへ忍(しの)んで行って、モグラが地面に穴を掘ってお蔵の床下(ゆかした)を破り、穀物を盗み出した。それを馬が背中に乗せて、急いで逃げた。遠くへ遠くへ駆(か)けていって、
 「ここまで来りゃぁ、もうええな」
というて、モグラと馬とで腹いっぱい食べたといいます。

 しかし、神様の物を盗ったのですから、神様に知れないわけにはいきません。二日ばかりするうちにやっぱり神様に知れた。モグラと馬と人間は神様の前に呼び出されて、お裁きを受けることになりました。
 神様は先(ま)ず人間に、
 「お前は悪さをしとらんな。だが、お前はモグラと馬が悪さをするのを知っとりながら止(と)めなかったので、苦労しないで食べ物を得(う)ることはならん。明るい娑婆(しゃば)で、畑へ作物を作って暮らせ」
とおっしゃられて、穀物の種をくれ、その作り方をも教えて下さった。 

 挿絵:かわさき えり
 次に馬に向って、
 「お前はかついで逃げたので、これからは一生の間、人間に使われて荷を運べ」
といいつけ、おしまいにモグラには、
 「お前が一番悪い。地を掘って蔵に穴をあけたので、明るい娑婆に置くわけにはいかぬ。あしたから土に潜(もぐ)って地の下で暮らせ」
といいわたされました。 

 それで人間と馬とモグラは今に至(いた)るもそのように暮らしているのだということです。

 いっちんさけえ。 

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