かりうどとやまいぬ
『狩人と山犬』

― 山梨県 ―
語り 平辻 朝子
再話 大島 廣志
整理・加筆 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社

 むかし、あるところにひとりの狩人(かりうど)があったと。
 山で狩りをしていると、大きな岩の下で山犬がアカゴを三匹産んでいた。
 それを見た狩人は、そろりそろり山犬に近づくと、
 「山犬どの、山犬どの、どうもおめでとうがした。ところでお願いじゃが、大事に育てるで、生まれたアカゴを一匹、おれにくれねぇか」
と頼んだ。
 山犬は狩人の言うたことがわかったらしく「ウォーン」と一声ほえたと。 

 昔からの言い伝え通り、狩人は十二日目に赤飯と魚を持って、また、山犬のところへ言った。
 そして、
 「約束のアカゴを一匹もらいに来た」
というと、山犬は子犬の尻を口に喰(く)わえて、一匹ずつ振ってみせた。
 前の二匹は「カインカイン」と啼(な)き、後の一匹は少しも啼かなかった。啼かない子犬の方がたくましいのだと。山犬は、その啼かなかった子犬をくれた。狩人は
 「大事に育てるでよ」
と礼をいうて家に連れて帰り、子犬を我が子のように可愛がったと。
 やがて、子犬は立派な山犬になって、狩人が狩りに行くときには必ずあとからついて行った。 

 挿絵:かわさき えり
 あるとき、狩人が山で狩りをしていると、日が暮(く)れてしもうた。
 大木(たいぼく)の下で一晩をあかそうと思うたら、どういうわけか、山犬が狩人の袖(そで)をくわえてひっぱる。
 はじめはふざけているのかと思うたが、
 「ウゥゥゥー、ウゥゥゥー」
とうなって袖を離(はな)さない。 

 
 「何をする。離せ。今夜はここで泊まるんだ」
と怒鳴(どな)りつけた。けれども山犬は袖を離すどころか、なおもひっぱった。
 狩人は、ただごとではない山犬の様子に薄気味(うすきみ)悪くなり、
 「気が狂ったか。俺を喰う気だな」
というが早いか、腰(こし)に下げていた山刀(やまがたな)で、サッと、山犬の首を斬(き)ってしまった。すると、首はポーンと跳(は)ねあがり、大木の上で狩人をねらっていた大蛇(だいじゃ)の頭に喰らいついた。まもなく、ドタリという音がして、大蛇が落ちてきた。
 わけを知った狩人は、
 「おれが悪かった。おれを助けようとしたお前を殺してしもうた。勘弁(かんべん)してくろ」 と、一晩(ひとばん)泣きあかしたと。 

 次の日、狩人は家の墓(はか)に山犬をほうむった。
 そして狩りを止(や)め、六部(ろくぶ)になって寺を巡(めぐ)って歩いたそうな。

 いっちんさけぇ。 

 挿絵:かわさき えり

 
 

山梨県
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