― 秋田県 ―
話者 大渕 しえ
採集 今村 泰子
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
提供 フジパン株式会社
むかし、あるところに大きな酒屋があったと。
酒屋には一人娘(むすめ)がいて、顔は目も覚めるほどの美しさなのに、手足は蛇(へび)そっくりの肌で蛇鱗(うろこ)がびっしり着いてあったと。
娘は年の十七、八にもなったが、嫁(よめ)にもらってくれる人も無く、聟(むこ)に来る人も無い。酒屋の旦那(だんな)さんと奥(おく)さんの一番の悩(なや)みの種だったと。
挿絵:かわさき えり
この酒屋には二、三十人もの若い衆(し)が働いていて、皆々(みなみな)、いせいがよかったと。その中にひとり、親兄弟もなく、幼(おさな)い頃(ころ)から使われている正直で心のいい若(わか)者がいたと。
あるとき、旦那さんと奥さんがこの若者を奥座敷(ざしき)に呼(よ)び、手をついて、
「娘を貰(もら)ってくれないか」
と頼(たの)んだ。若者は、
「どうぞ、頭を上げて下さい。身寄(よ)りのない私を、小っさいときから仕込(こ)んで下さったご恩(おん)の数々(かずかず)、片(かた)時も忘(わす)れたことはありません。
大恩(たいおん)ある旦那さんと奥さんの願い、つつしんでお受けいたします」
と、迷(まよ)わず言うたと。
蛇鱗の一人娘とこの若者との祝言(しゅうげん)のことが店の若い衆にも伝えられると、みなみな聟指名が己(おのれ)でなかったことに胸(むね)をなぜおろしたと。
そして、この若者に、
「めでたい、というていいのかな」
「お前(め)、よくこの話承知(しょうち)したな」
「おかげで、俺(おれ)たち、明日から何の心配もなく仕事にせい出せる」
「そうだ、俺たち、お前に感謝(かんしゃ)しなきゃなんねぇな」
「祝儀のとき、お前のかわりにやけ酒呑(の)んでやるからよ」
と、口々に言うた。
若者は、
「お前たちの気づかいはありがたいが、俺、この話、本音で承知した。だから、お前たちも本心から祝ってくれ」
というたと。
祝儀(しゅうぎ)の日、三三九度の盃事(さかずきごと)もおわって樽(たる)入れとなった。
樽入れというのは、披露(ひろう)のことで、昔から嫁に酒をつがせることになっている。
若い衆たち、
「嫁さん、俺たちの前に出てくるんだべな」
「今夜、嫁さんに酒つがせねェこったば、悪(あ)くたれるぞ」
というて、
「早く酌(しゃく)にこい。まだ出て来ねェのか」
と、だんだんに騒(さわ)がしくなってきた。
蛇鱗の嫁、人前に出るのが嫌(いや)で隣(となり)の部屋で、
「どうか襖(ふすま)あけられないようにして下さい。神様、お願いします」
と、一心に守り神様に祈(いの)っていたと。
そこへ、きかん気の若い衆が酔(よ)っぱらって、
「早く酌しに来い」
というて、その襖、グワリッと開けてしまった。嫁、
「アイーッ」
と叫(さけ)んで、タタミに身を縮(ちぢ)めた。
挿絵:かわさき えり
その拍子(ひょうし)に、手足の蛇鱗が皮ごとパラリと割(わ)れてとれた。とれたあとには、抜(ぬ)けるように白い、きれいな肌(はだ)の手足があったと。
とっぴんぱらりのぷう。
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むかし、むかし、あるところに太郎狐と治郎狐の兄弟狐があったと。ある日のこと、二匹が連れだって山道を歩いていたら、道端に握り飯が二個、竹の皮に包まれて落ちていた。いい匂いだと。
むかし、あるところに和尚さんと小僧さんがおったと。ある秋の日、和尚さんと小僧さんが檀家の法事をすませてお寺へ帰る道を歩いていたと。空は晴れとるし、草花は咲いとるし、道端の石に腰かけて、和尚さん一服した。
「蛇鱗嫁」のみんなの声
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